ドラフト7位で入団して

第327話 ベテラン対ベテラン

　青村投手対岸選手。

　どちらもベテランであり、実績も互角である。

　ツーアウト満塁というのも勝負の舞台として、申し分ない。

　球場のお客さんも固唾を飲んで、この名勝負を見守っている。

　静寂の中、泉州ブラックスの私設応援団の鳴り物と声援だけが、響いている。

　僕はこの緊張感の中、プレーできることに喜びを感じていた。

　こういう時、エラーをすることを僕は恐れない。

　精一杯やったエラーなら、僕は仕方ないと思っている。

　ファンの方はそうは思わないだろうが、好プレーとエラーは紙一重である。

　エラーを恐れては、好プレーなどできないのだ。

　初球。

　外角へのストレート。

　球速表示は148km/hだが、それ以上の伸びがある。

　岸選手は見送った。

　ストライクワン。

　２球目。

　内角高目へのスライダー。

　ストライクゾーンからボールゾーンに変化した。

　岸選手はこれも見送った。

　判定はボール。

　このように内角へ食い込んでくると、普通は仰け反るものだが、岸選手は微動だにしない。

　その眼光は鋭く、獲物を狙う目だ。

　３球目。

　真ん中低めへのスプリット。

　岸選手のバットはピクリと動いたが、見送った。

　今度は高さがストライクゾーンからボールゾーンに変わる球だ。

　並のバッターであれば間違いなくバットが出てしまうだろう。

　判定はボール。

　これでツーボール、ワンストライクと、バッティングカウントになった。

　そして４球目。

　真ん中高目へのストレート。

　岸選手は強振した。

　打球はレフトにライナーで飛んでいる。

　僕もジャンプしたが、そのかなり上を越えていった。

　これは左中間を抜ける。

　そう思った瞬間、今日スタメンの水木選手が横っ飛びした。

　一瞬の静寂の後、歓声と大きなため息が球場内を包んだ。

　水木選手は打球をグラブの先に収めていた。

　青村投手は珍しく大きなガッツポーズをした。

　これぞプロという、ギリギリのプレーだ。

　ツーアウトだったので、抜ければランナー全員ホームインしただろう。

　僕はショートの守備位置で、水木選手を出迎えた。

　水木選手は大卒のプロ３年目であり、僕の１歳下に当たる。

　僕と水木選手はグータッチして、ベンチに戻った。

　これで僕のヒーローインタビューの可能性が残った。

　ありがとう。

　このまま勝ったら、今日の夕飯は奢ってやるかな。

　７回表、ツーアウトから５番の立花選手にソロホームランが生まれた。

　マウンドの白石投手はさすがにガックリとしている。

　ここまで僅か２安打に押さえているが、その２本がホームランである。

　これで２対０。

　俄然有利になった。

　白石当社は続く、６番のロイトン選手を三振に仕留め、この試合14個目の三振を奪った。

　アウト21個中、三振が14個である。

　素晴らしい投球内容だ。

　７回裏も青村投手はヒットを１本打たれたものの、無失点で切り抜けた。

　ベンチに戻ってくると、監督や投手コーチと握手しているところを見ると、８回のマウンドには上がらないのだろう。

　８回表も白石投手はマウンドに上がり、７番からの下位打線を三者凡退に抑えた。

　そして８回裏、札幌ホワイトベアーズは勝ちパターンの継投に入った。

　８回はベテランの大東投手。

　フォアボールを一つ与えたものの、ダブルプレーを奪い、三人で切り抜けた。

　そして９回表は僕からの打順である。

　ホームランの後はここまで三振２つ。

　良い感触で終わりたいので、ここは１本欲しいところだ。

　泉州ブラックスの最終回のマウンドにも、白石投手が立った。

　僕はフルカウントまで粘ったが、外角低めへのストレートを見逃し、三振してしまった。

　スプリットに的を絞っていたのだが、その裏をかかれた。

　これで今日は４打数１安打、３三振。

　初回のホームランが遠い過去に思える…。

　白石投手は結局、９回を投げきり、被安打２、いずれもソロホームラン。

　三振15という素晴らしい内容だった。

　そして９回裏は、抑えの新藤投手。

　今日も新藤劇場は開幕し、１点を失い、更にツーアウト満塁のピンチを背負ったが、何とかラストバッターを三振に抑えた。

　その瞬間、新藤投手は大きなガッツポーズをし、やがて僕らはホームベース付近に集まり、歓喜のハイタッチをした。

　そしてベンチに戻りながら、今日のヒーローインタビューは誰になるだろうと考えた。

　アウェーなので、ヒーローインタビューは１人である。

　候補としては勝ち投手の青村投手、先制ホームランの僕、そして貴重な追加点（結果的には勝ち越し点）のホームランを打った立花選手の三人が考えられる。

　さてどうなるか。

　次回に続く。