第323話 一塁へゴー

 1点を勝ち越したので、札幌ホワイトベアーズとしては継投に入る。

 7回裏のマウンドには、勝ちパターンのルーカス投手が上がった。

 190cmの長身から、ツーシームで打たせて取るピッチングが持ち味である。


 この回はヒットを1本打たれたものの、ショートの汚名返上の素晴らしいプレーもあって、無失点に抑えた。

 

 ツーアウト二塁からの、三遊間を抜けそうな強い打球を滑り込むようにしてグラブに納め、立ち上がるや否や一塁にストライクの送球をしたのだ。

 我ながら良いプレーだった。


 ベンチに戻ると、ルーカス投手が待ってくれており、ハイタッチした。


 8回表は4番のダンカン選手からの打順である。

 静岡オーシャンズのマウンドには、柏投手。

 柏投手は主に勝ちパターンで投げる投手であるが、まだ1点のビハインドということで、これ以上は点を許さないという意思表示だろう。


 その柏投手からダンカン選手が初球、ソロホームランを放った。

 これで3対1点。

 俄然有利になった。

 このまま勝てば、ヒーローインタビューはやはり谷口か。

 一応2打点挙げているし。


 続く5番の下山選手もツーベースヒットを打ち、6番のロイトン選手がタイムリーヒット。

 これで4対1。

 

 7番の西野選手は送りバントし、8番の上杉捕手は凡退したものの、9番の野中選手はフォアボールを選んだ。

 そしてツーアウト一、二塁の場面で僕の今日、5回目の打順を迎えた。


 今日は4回打席に立って、2打数2安打。

 もう1本打って、猛打賞を取りたい。

 確か今日の猛打賞の賞品は、静岡特産のイチゴだったはずだ。


 僕は静岡オーシャンズの守備体形を見渡した。

 ツーアウトということもあり、通常の守備体形だ。

 

 静岡オーシャンズのマウンドは、右の安宅投手に変わった。

 これ以上の失点は防ぎたいとの事だろう。


 初球。

 僕は三塁線沿いにセーフティバントをした。

 もちろんノーサイン。

 僕の判断である。


 サードの戸松選手は虚をつかれたようで、懸命にダッシュしている。

 そしてそれを横目に見ながら、僕は一塁に走った。

 一塁へゴー。略してイチゴ。


 そして戸松選手の送球をファーストの清水選手が捕球するのとほぼ同時に、僕は一塁を駆け抜けた。

 どうだ。

 イチゴ獲得なるか?

 ドキドキ。


 判定はセーフ。

 静岡オーシャンズのベンチはリクエストしたが、判定は変わらず。

 やったー。

 猛打賞だ。イチゴだ。

 イチゴは結衣の好物であり、きっと喜んでくれるだろう。

 もっとも我が妹もイチゴは好物であるので、半分は取られるかもしれない。

(いつも自作のパンケーキにホイップクリームをかけ、その上にイチゴを載せている)


 それはさておき、ツーアウト満塁で谷口の打順だ。

 ここでもし打てば、アナウンサー泣かせのヒーローインタビュー間違いなしだろう。


 そしてツーボール、ワンストライクからのバッティングカウントから、谷口は狙い済ましたようにフルスイングした。

 打った瞬間それとわかる、ライナー性の素晴らしい当たりだった。

 

 見事なグランドスラム。

 谷口は普段は打ってもあまり表情に出さないが、さすがに満塁ホームランは嬉しそうで、ホームインの瞬間、笑みが溢れていた。

 それはそうだろう。

 今日、6打点。

 古巣の静岡オーシャンズに対しては、強烈な恩返しだ。


 結局試合は8対1で勝利し、終わってみれば快勝だった。

 僕にとってはこの試合は特別な試合だった。

 相手は古巣の静岡オーシャンズ、そして両先発はこの物語の初期から登場している、五香投手と杉澤投手。

 そして谷口とモブキャラの原谷捕手までスタメンで出場した。

 そして全員が活躍したのは、出来過ぎだと思う。

 まるで出来の悪い野球小説みたいだ。


 勝利の歓喜の輪がほどけ、僕はベンチ裏に引き上げた。

 さて期待の谷口のヒーローインタビューが始まる。

 ワクワク。

 

  

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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