第371話 俊足カルテットの躍動

 西やんこと、西野選手は打率は.250程度だが、バント、ヒットエンドラン、スクイズ、軽打。

 何でもできる。

 ここはダブルプレーだけは避けたい場面だ。


 ということで谷口に代走として、水木選手が送られた。

 西野選手も俊足なので、ピッチャーゴロでも打たない限り、ダブルプレーの危険は低い。


 僕は三塁ベース上で、ベンチのサインを確認した。

 サインはノーサイン。

 つまり好きに打てということだ。


 一塁ランナーの水木選手は、大きくリードを取っている。

 秋波投手、秋保捕手のアキアキバッテリーとしては、二塁に進ませたくないだろうし、かと言ってあまりそちらに集中しすぎると、僕がホームに突っ込む可能性もある。

 相手としてはプレッシャーがかかる場面であろう。


 初球。

 外角低目へのチェンジアップ。

 西野選手のバットはピクリと動いたが、見逃した。

 ストライクワン。


 一塁への牽制球を2球挟んでの、2球目。

 内角へのストレート。

 西野選手は仰け反って避けた。

 ボール。

 これでカウントはワンボール、ワンストライク。

 僕と水木選手はスタートを切らない。


 僕はベンチのサインを見た。

 サインは…、スクイズ!?

 ここで来たか…。


 3球目。

 投げると同時に僕はスタートを切った。

 

 アキアキバッテリーはこれを読んでいたのか、大きく外してきた。


 だが西野選手は懸命に飛びつき、バットの先に当てた。

 

 僕はそのままホームに滑り込んだ。

 打球は一塁線上を転がっており、西野選手は一塁に向かっている。

 秋保投手は打球の行方を見守っている。

 ファールになると見ているのだろう。

 だが打球は切れなかった。


 見事に西野選手はスクイズを成功させ、一塁もセーフ。

 一塁ランナーの水木選手もこの隙に三塁に達した。


 僕はガッツポーズしながら、ベンチに戻った。

 ベンチは大きく盛り上がっている。

 同点に追いつき、更にワンアウト一、三塁。

 しかもランナーは俊足の水木選手と西野選手。


 打席にはこれまた俊足の野中選手が向かった。

 スクイズもありうるし、普通に打っても面白い。


 仙台ブルーリーブスは、秋波投手に替えて、右の多賀投手をマウンドに送った。

 野中選手が右打ちなので、右対右ということだろう。


 シンカー、スライダー、カーブなど多彩な変化球を操るピッチャーであり、球速は140km/h前半とそれほど速くは無い。


 多賀投手は当然、ファーストランナーを気にしている。

 ワンアウト二、三塁にはしたくない場面だ。


 西野選手(僕は心の中で西やんと呼んでいる。本人に言った事は無い)は、それほど大きくはリードしていないが、執拗な牽制球を受けている。

 立て続けに3球、牽制球が来た。


 そしてセットポジションから、野中選手に第一球を投じた…と思った瞬間、多賀投手はすばやくピッチャープレートを外し、一塁に牽制球を投げた。

 

 西野選手は大きくリードをとっていた。

 西野選手は誘い出され、一、二塁間に挟まれた。

 そして二塁に向かい、セカンドにボールが送られた瞬間、三塁ランナーの水木選手がスタートを切った。


 セカンドの城選手はすぐにホームに送球した。

 水木選手がホームは滑り込み、秋保捕手がタッチに来る。

 判定はどうだ?

 

「セーフ」

 そして

 西野選手はすかさず三塁に向かっている。

 秋保捕手はすぐにサードに送球した。

 これもセーフ。

 勝ち越して、更にワンアウト三塁となった。


 そして野中選手のショートゴロの間に、三塁ランナーの西野選手がホームインした。

 これで4対2。

 

 浅利選手の粘りのフォアボールと俊足カルテット(僕、水木選手、西野選手、野中選手)で3点をもぎ取った。

(そう言えば、谷口がヒットを打ったのを忘れていた)


 試合は9回裏に新藤劇場が開幕し、1点を失って、ワンアウト二、三塁のピンチを背負ったものの、後続を連続三振に抑え、4対3で逃げ切った。

 何としても今年はクライマックスシリーズに出たいものだ。

 

 

 

 


 

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