第401話 僅差の時こそ
1回裏にノーヒットで1点を先制した、札幌ホワイトベアーズ打線は、その後は松島投手の緩急自在のピッチングの前に苦しめられていた。
対するバーリン投手も毎回スコアリングポジションに、ランナーを背負うも、バック(セカンドなど。ここ大事)の好守にも助けられて、無失点で抑えていた。
5回表を終えた時点で、1対0。
札幌ホワイトベアーズ無安打に対して、仙台ブルーリーブスは7安打。
球場の多くを占める、札幌ホワイトベアーズファンの方々はフラストレーションが溜まる試合となっている。
(フラストレーションとは、日本語で欲求不満とか欲求阻止という意味の英単語です。
皆さん、知っていましたか?
以上、高橋隆介のワンポイント英語講座でした)
5回裏は9番のバーリン投手からの打順であったが、三球三振に倒れ、ワンアウト。
そして打順はトップに帰って、湯川選手がバッターボックスに向かった。
湯川選手は今日は2打数ノーヒット。
いずれも良い当たりだったが、野手の正面をついていた。
ファンにはアンラッキーに見えたかもしれないが、実はこれは必然である。
というのもプロの世界では、バッターごとに微妙に守備位置を変える。
その元となるのはデータであり、開幕して対戦カードもほぼ一周りし、湯川選手のデーターが各球団とも蓄積されてきた頃だ。
つまり得意なコース、苦手なコース、得意な球種、苦手な球種。
そして打った時の打球の方向。
そういうデーターを分析し、どこに打ってくる可能性が高いかアテをつけているのだ。
ましてや大型新人である湯川選手は、各球団にとっても最大の警戒対象であるだろう。
つまりこうなってからが、プロとしての本当の勝負なのである。
ということでこの打席も、三遊間に良い当たりを飛ばしたが、ショートの真正面であり、いくら俊足の湯川選手と言えど、一塁はアウトになった。
湯川選手にとって、これから大切なのは、それでも自分のバッティングを崩さないことである。
結果を欲しがるあまり、自分のスタイルを崩してしまっては、相手の思うツボである。
「解説してないで、早くバッターボックスに入れ」
そうだった、次は僕の打順だった。
道岡選手に促され、バッターボックスに入った。
ツーアウトランナーなし。
ここまで松島投手の前に、僕と下山選手がフォアボールで出塁した以外は、ノーヒットに抑えられている。
(2打席目はフルカウントから、ショートゴロ)
ここも粘って出塁したいところ…だと思うだろう。
ところが僕はここは逆張りした。
恐らく相手も粘ってくると思っているだろうから、そうはさせじと初球からストライクゾーンに球が来ることが予想される。
だから初球を狙った。
投球は外角へのカットボール。
ストライクゾーンギリギリに決まりそうだ。
僕はうまく右打ちした。
打球はファーストの頭を越え、ライト線沿いのフェアゾーンに弾…まなかった。
ライトの守備の名手、立野選手が前にダイビングし、グラブの先に納めた。
もしタイミングが合わず、打球を後ろに逸らすと三塁打となったかもしれない。
そんな危険を顧みず、立野選手は前に飛び込んできた。
ツーアウトランナー無しだから、できたプレイだろう。
ぴえん。
ヒット1本損した。
僕は宙を仰ぎ、首を振りながらベンチに帰った。
「ナイスバッティング」
谷口が声をかけてきた。
「まあ捕られちゃ、元も子もない」
「いやいや、あのバッティングを続けていれば結果はでるさ」
そうだ。
僕だってプロで9年目だ。
技術の蓄積はある。
データーだけでは計り知れない、微妙なテクニック。
それは湯川選手に対しても、僕のアドバンテージだと思う。
5回裏終了後の球団のチアリーダーのチームポラリスのパフォーマンスが終わり、僕はセカンドの守備についた。
さあ、こっちに打って来い。
まだまだアピールしてやる。
1対0の僅差ということもあり、6回からは継投に入る。
この回は札幌の寅さんこと、鬼頭投手がマウンドに向かった。
例の登場曲の中、投球練習をしている。
一つのエラーが致命傷となる僅差の勝負。
こういう試合こそ、僕の持ち味を出すチャンスなのだ。
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