第261話 球団事務所にて

 新千歳空港では、球団職員の他に方に報道陣の方々も待っていた。

 幾つかのカメラに囲まれたが、記者会見は球団事務所に着いてからということで、マイクは向けられなかった。

 

 その後、黒塗りの車に乗り、球団事務所に向かった。

 出迎えてくれたのは球団本部長の北野さんと、職員の美園さん、そして一軍マネージャーの石山さんだった。

 こんな黒塗りの車での出迎えなんて、僕も偉くなったものだ。

 軽くそんな事を思った。


 新千歳空港から球団事務所までは車で1時間位であったが、その殆どが北海道らしい自然の中だった。

 道幅も広いし、心なしか走る車の速度も速い。

 北海道で暮らすことを考えると、不安しかないが、まあ住めば都という言葉もあるし、何とかなるでしょう。


 球場に隣接している球団事務所に着いた。

 札幌ホワイトベアーズの本境地はどさんこスタジアムである。

 開閉式の屋根がある球場で、グラウンドは天然芝である。

 春先はまだ雪が残っているとの事で、屋根を閉じて試合を行うことが多いそうだ。

 オープンして数年しか経っていない、新しい球場だ。


 札幌ホワイトベアーズのゼネラルマネージャー、つまりGMはジャックという名前の外国人である。

 ジャックGMは過去に札幌ホワイトベアーズに在籍経験があり、大リーグのマイナーリーグでコーチ、監督の経験を積み、やがて大リーグのGM補佐の役職に就いていたのを、ヘッドハンティングしたらしい。


 監督は大平さんであり、キャッチャーとして東京チャリオッツに入団し、トレードで札幌ホワイトベアーズに入団した。

 一軍ではほとんど活躍できなかったが、ブルペン捕手、ブルペンコーチを歴任し、やがてヘッドコーチを経て、監督に就任した叩き上げの人である。


 ジャックGMは超合理主義者として知られているが、大平監督は人情派と言われており、水と油のような気がするが、なかなか相性が良いという評判だ。

 過去に一緒にプレーしていた時期もあるそうだ。

 2人とも最近低迷気味のチームを再建するために、今シーズン就任したばかりである。


 球団事務所ではGM室に通され、そこには大平監督もいた。

「ハロー、ナイストゥーミーチュー」

 部屋に入ると、ジャックGMに握手を求められた。

 ジャックGMは背が高く、190cm近くある。手も大きかった。

 

「ようこそ、札幌に」

 大平監督は思ったよりも小柄で、僕よりも背が低いようだったが、体格は元キャッチャーらしくガッシリしていた。

「よろしくお願いします」

 僕は入り口で頭を下げた。

 

「どうぞ、座って下さい」

 通訳の方に言われて、僕は応接セットのソファーに座った。

 その正面の席にジャックGM、僕の左斜の席に大平監督が座った。

 

「サッポロニヨウコソ。

 タカハシセンシュニハ、トテモキタイシテイマス」とジャックGM。

「突然の事で驚いただろう」と大平監督。

「はい、正直なところ、今もこれが現実なのかフワフワしています」

「知ってのとおり、我がチームは二遊間が手薄であり、これまでもトレードを仕掛けてきたが、なかなかまとまらなかった。

 今回は俺がどうしても高橋選手を欲しいと、ジャックに頼んだのだ」

「トレード期限も迫っていたので焦りましたが、白石投手を出すと決断してからは話が速く進みました」

 ジャックの言葉を通訳が訳した。

 

「白石もかっては二桁勝利を3回したが、ここ2、3年は負けの方が多くなっている。

 元々気持ちで投げるピッチャーなので、環境を変えることで復活することを期待している。

 あいつにとって、大阪の泉州地区は地元だしな」

 

 なるほど、そういう事情もあったのか。

 確かに白石投手の成績を見ると、4年前に二桁勝利(10勝8敗)を挙げてから、7勝7敗、7勝9敗、7勝8敗とローテーションは守っているものの、勝ち星は伸びていない。


 泉州ブラックスは打撃のチームなので、クオリティースタート(6回を3失点以内に抑えること)ができれば、勝ち星は伸びるかもしれない。


 ジャックGMと大平監督との会談を終えた後、ユニフォームの採寸を行い、また希望する背番号を聞かれた。

 空いている13、17、19、23、29から好きな番号を選んで良いとのことだったが、僕は58を希望した。(うまい具合に空いていた)


 札幌ホワイトベアーズのユニフォームは、白と青を基調にしている。

 雪と青空をモチーフにしているらしい。

 静岡オーシャンズもスカイブルーのユニフォームだったが、それよりもやや色が濃い。


 ところで結衣に指摘されて、気になっていたのだが、シロクマは英語でポーラーベアというらしい。

 そもそも北海道にシロクマはいないだろう。

 その点をマネージャーに突っ込むと、細かいことは気にするなと言われた。

 まあ確かに札幌ポーラーベアズというのも変だし、札幌ベアーズだけなら味気ない。


 僕の体格はプロ野球選手としては標準的なので、すぐにサイズがあるユニフォームが用意された。

 これが体格が大きい選手なら、特注となるので時間がかるそうだ。


 そして記者会見が行われる会見場に移動した。

 記者会見には大平監督も同席するとのことだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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