第262話 入団会見
記者会見ではユニフォームの上だけを羽織った。
そして帽子を被ると、いよいよ札幌ホワイトベアーズの一員になったという実感が込み上げてきた。
カメラが十台近く来ており、会場には20人くらいの記者の方がいた。
結構注目されているようだ。
そして写真撮影の後、インタビューを受けた。
「今回、札幌ホワイトベアーズに入団した感想をお願いします」
「はい、まだ実感がわかず、フワフワしています」
「期限ギリギリのトレード。
驚かれたのではないですか?」
「はい、びっくりしました」
「最初、トレードと聞いた時はどう思いましたか?」
「はい、何で僕がと思いました。
高橋隆久投手と間違えたのではないかと思いました」
「札幌ホワイトベアーズの印象は、これまでどう感じていましたか」
「えーと、正直なところ、知り合いもあまりいないし、2軍でもリーグが違うし、縁遠いチームだと思っていました」
「その縁遠かった札幌ホワイトベアーズに入団することになって、今はどう感じていますか?」
「はい、北海道は美味しいものがいっぱいあると聞いていますので、楽しみです」
「野球の面ではいかがですか?」
「はい、レギュラーを目指したいです」
「自信はありますか?」
「はい、静岡オーシャンズと泉州ブラックスで鍛えられた力を発揮したいと思います」
「目標とする数字はありますか?」
「3割30本を打って、盗塁も30 個以上したいです」
「そうですか。いつか果たせれば良いですね」
軽く流された。
「背番号についての質問ですが、引き続き58を希望されたと伺いましたが、何か思い入れがあるのですか?」
「はい、第10話を読んで下さい」
「ジャックGM、大平監督とはどのような話をしましたか」
「はい、とても期待していると声をかけて頂きました」
「実績のある白石投手とのトレード、プレッシャーもあるかと思いますが、その辺はいかがですか」
「はい、それだけの期待を背負っているということで、身が引き締まる思いです。
気体は軽いものですが、僕への期待は飛行機の機体よりも重いと感じています」
「…、もしかしてお酒、飲んでいますか?」
ハイレベルの洒落だったので、記者の皆さんはついてこれなかったようだ。
「札幌ホワイトベアーズのファンの方に一言お願いします」
「はい、高橋隆介25歳。背番号58。
チームの力になれるように、精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします。
蒼き旋風と呼んで頂けると嬉しいです」
この日は白石投手の泉州ブラックスの入団会見もあったようで、テレビのスポーツニュースでも結構大きく取り上げられた。
白石投手は泉州地区が地元なので、嬉しいというような事を言っていた。
僕に対しては、お互いに取って良いトレードとなるように頑張りましょう、というようなメッセージをテレビ画面を介してもらった。
直接の面識は無いがありがたく感じた。
札幌では当面は寮に入ることになった。
といっても札幌ホワイトベアーズの二軍は茨城県に本拠地があるので、札幌の寮は基本的に一軍選手専用である。
札幌ホワイトベアーズは今日までホームでの川崎ライツ戦であるが、一日おいて明後日からは岡山での岡山ハイパーズ三連戦であり、僕はそこからチームに合流することになった。
よって明日には岡山へ立たなければならないし、また住むための荷物も無いので、今晩は球団が新千歳空港近くに用意してくれたホテルに泊まる。
寮に入るのはまだ先になりそうだ。
翌日は岡山に移動し、夕方ホテルでミーティングがあった。
そこで僕はチームメートの皆さんに挨拶した。
札幌ホワイトベアーズで面識のある選手は少ない。
その中の1人に道岡さんがいた。
「お久しぶりです」
僕は道岡さんの姿を見つけると、真っ先にかけよった。
「おう、久しぶり。しかし驚いたな。
まさか一緒のチームでやることになるとはな」
道岡さんは僕が泉州ブラックスに移籍した年の黒沢さんとの自主トレに参加していた選手の1人である。
黒沢さんと同年代であり、すでにベテランの域に入っているが、サードの不動のレギュラーとして君臨している。
3年前にフリーエージェントの資格を得たが、4年契約で残留した、ミスターホワイトベアーズと言っても過言のないくらいの存在である。
「黒沢からもよろしくと言われている。
何か困ったことがあれば言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
新天地で不安の中、道岡さんの存在は心強い。
プレー面でも道岡さんとは三遊間を組むことになる。
チームメートへの挨拶の後、琴野ヘッドコーチから、サインプレーについて教えてもらった。
そして明日の試合、いきなり1番ショートでのスタメン出場を告げられた。
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