第125話 5回目のシーズンオフ

 結論から言うと、我が泉州ブラックスは、惜しくもクライマックスシリーズへの進出は適わなかった。

 3位の中京パールスとはゲーム差無しの4位。

 引き分け数の差が最後に明暗を分け、勝率の僅かな差で涙を飲んだ。


 チームは143試合を戦い、70勝68敗5引き分け。

 

 僕の今シーズンの最終成績は、73試合に出場し、107打数26安打の打率.243、ホームラン1本、打点12、盗塁13(盗塁死6)。

 

 結局、シーズン通じでも一度も二軍落ちせずに一軍に帯同した。

 我ながら飛躍のシーズンになったと言えるのではないだろうか。


 もし僕があのまま静岡オーシャンズにいたら、今年でクビになっていたかもしれない。

 実際、7年前のドラフト1位だった、内沢選手は戦力外通告を受けたようだ。

 育成契約の意思はあるようだが、プライドの高い内沢選手がそれを受け入れるかどうか。

 

 なお、昨年育成契約となった足立は来シーズンも育成契約を締結するようだ。

 足立は僕よりも1学年下であり、まだ若いので頑張って欲しい。


 ところで高校時代の地区予選で対戦し、岡山ハイパーズを戦略外になった五香選手はどうしているのだろうか。

 プロでは投打の二刀流に挑戦したが、どちらも一軍レベルには到達せず、昨シーズン終了後、戦力外通告を受けた。

 アメリカの独立リーグに挑戦するという報道もあったが……。


 昨シーズンまでの僕は自分自身が来季の契約があるか不安で、人の心配をしている立場ではなかったが、今年は落ち着いたシーズンオフを過ごせそうだ。

 宮崎フェニックスリーグに参加するのは例年通りだが、今回は年俸がどのくらい上がるか楽しみにしている。

 今シーズンは1,100万円だったが、少なくとも一軍最低年俸の1,600万円には届くだろう。

(今シーズンは差額の500万円を満額受け取った)

 

 何しろ、来季はプロ入り6年目を迎えるので、シーズンオフには寮を出る必要がある。

 どうやら部屋を借りるには、家賃の他に敷金や礼金というものがあるらしいし、家具とか電化製品とかも買わなくてはならない。

 そして引っ越し費用もかかる。

 結構な出費になるだろう。


 そんなある日の事だった。

 僕が駿河オーシャンスタジアムで練習をしていると携帯電話に着信があり、球団事務所に今すぐ来るように呼ばれた。

 僕は飛行機に乗り、球団事務所に向かった。

 そして応接室に入ると、中には朝比奈監督と栄ヘッドコーチがいた。

 

「まあ、座れ」と栄ヘッドコーチに言われ、僕は座った。

 朝比奈監督が口を開いた。

「単刀直入に言う。

 お前とは来季は契約しない」

 その瞬間、僕は頭が真っ白になった。

 

「何故ですか。

 今季はそれなりに一軍戦力になったと思いますが……」

「お前はホームランが少ない。

 もっとホームランを打って、打率も三割打てないと使えん」

「でも守備や足で貢献したと思いますが……」

「エラーも多いし、盗塁死も多い。

 何よりもヒーローインタビューがなっとらん。

 だから戦力外だ」

 僕は思った。

 まあ、いいか静岡オーシャンズにでも拾ってもらおう。

 

 すると、そこには何故か静岡オーシャンズの小太りの球団職員がいた。

「君なんてうちのチームもいらないよ。そうだな、ピッチャーとしてなら契約してもいいか」

 え、ピッチャー?

 僕はこれからピッチャーになるのか。

 それならば、ピッチャーのグローブを買いに行かないと。

 今度行く、USJに売っているかな…………。

 

 目を開けると、いつも見慣れた寮の部屋の天井が目には入った。

 夢か………。

 変な夢を見たものだ。

 深層心理では、僕は戦力外になることを恐れているのかもしれない。

 いずれにせよ、夢だったことに大きく安堵し、トイレに行った後、再び眠りについた。

 明日から、宮崎フェニックスリーグだ。

 アホな夢を見ていないで頑張ろう……zzz


 


 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る