第298話 何もかもうまく行かない日
初回に1点をもらった稲本投手だが、2回につかまり、ヒットとフォアボールでノーアウト満塁のピンチを背負った。
僕ら内野陣はマウンドに集まり、稲本投手を励ました。
「大丈夫だ。まだ試合も序盤だ。1点や2点くらいくれてやるつもりで投げろ」と道岡選手。
稲本投手は大きく頷いた。
「よし、一つずつアウトを取っていくぞ」
「おう」
道岡選手の掛け声に答え、それぞれの守備位置に戻った。
相手バッターは、7番ショートの麻生選手。
それほど長打力は無い。
まだ回は浅いので、内野陣はダブルプレーシフトを敷いた。
1点は仕方がないという守備体型だ。
そしてワンボール、ツーストライクからの4球目。
稲本投手が投げた外角へ低めへのツーシーム。
麻生選手は手を出し、ショートゴロ。
正面への打球であり、落ち着いて捌けばダブルプレーを取れる。
そう考えて捕球しようとした瞬間、ランナーの動きに気を取られてしまった。
「あっ」と思ったときには、打球を弾いていた。
慌てて拾い上げたが、どこにも投げられない。
記録は僕のエラーだ。
これで1点を失い、引き続きノーアウト満塁だ。
絶対にやってはいけないプレーをしてしまった…。
捕球さえしていれば、1点を失ったとしてもダブルプレーは取れていた…。
僕らは再び、マウンドに集まった。
「申し訳ありません」
「なーに、弘法大師も木から落ちるし、カッパも皿を落とす。高橋だって、エラーするさ」と道岡選手。
言葉の意味は良くわからないが、どうやら励まして頂いたらしい。
「そうだ。もし負けたら、今日はお前がみんなにステーキ奢れよ」と稲本投手。
良いチームメートに恵まれて、僕は幸せだ…。
続くバッターは8番キャッチャーの大隅選手。
キャッチャーであり、打撃はそれほど得意ではない。
しかし初球。
捉えた打球が僕の方に来た。
懸命に飛び上がり、グラブを伸ばしたが、届かない。
タイムリーヒットだ。
そう思った瞬間、レフトの谷口が猛チャージしていた。
そして前に飛び込み、ノーバウンドで捕球し、すぐに立ち上がり、二塁に投げた。
アウト。
ダブルプレーだ。
ライナーだったので、三塁ランナーもタッチアップできなかった。
一気にツーアウト一、三塁となった。
一歩間違えれば、全てのランナーが生還するギリギリのプレーだった。
僕は谷口の方を振り返り、サンキューと口の動きで伝えた。
すると谷口はナイフとフォークでステーキを切る仕草をしてきた。
お前まで…。
ピンチは続くとは言え、バッターは9番の円城寺投手だ。
ところが稲本投手は制球が定まらず、フォアボールを与えてしまった。
これでツーアウト満塁で、1番センターの国分選手だ。
ピンチは続く。
初球。
真芯で捉えた打球が三遊間に飛んできた。
イチかバチか。
僕は必死に飛びついた。
だが打球はグラブに当たって、上に浮き上がった。
また捕れなかった。
今度こそ逆転だ。
そう思った瞬間、その浮き上がった球をサードの道岡選手がスライディングキャッチした。
良かった…。
結局、この回僕のエラーもあったが、最少失点の1点で切り抜けた。
味方の皆さんに感謝する。
試合は1対1のまま、3回裏、ワンアウト一塁の場面で、僕の打順を迎えた。
ベンチのサインは送りバント。
ここは不調でも確実に決めたい。
初球。
低めへのフォーク。
ボール球と思ってバットを引いたが、ストライク。
2球目。
外角へのストレート。
バントをしたが、ファール。
またしても追い込まれた。
ベンチのサインを見ると、スリーバントのサインだ。
ここは死んでも決めてやる。
そういう思いでバットを握りしめた。
3球目。
フォークだ。
バットには当てたが、ファール。
これでスリーバント失敗…。
記録は三振だ。
僕はうつむいて、ベンチに戻った。
今日は良いところが全く無い。
死んでも決めてやる、という意気込みも空回りしてしまった…。
きっとこれを読んでいる読者の方々もフラストレーションが溜まっているだろう。
ごめんなさい…。
(作者注:ようやくフラストレーションの意味を理解したようです)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます