第299話 天中殺みたいな日
僕のバント失敗により、ツーアウト一塁になってしまった。
次は好調の谷口だったので、何としてもスコアリングポジションにランナーを進めたいところだったのだが…。
谷口も簡単ににツーストライクと追い込まれた。
最後は決め球のフォークだろう。
円城寺投手のフォークは分かっていても打てない。
ストライクゾーンからストンと落ちるのだ。
3球目。
真ん中から低めに落ちるフォーク。
空振りかと思ったら、うまく拾い上げた。
打球はセンターに良い角度で上がっている。
そして打球はそのまま、センターフェンスに当たった。
一塁ランナーの上杉捕手がホームインし、谷口はセカンドまで達した。
つまり僕のバントミスを帳消しにしてくれた。
そしてベース上でまたナイフとフォークでステーキを切る仕草をしている。
わかったよ。
このまま勝ったらな。
これで2対1。
1点リードとなった。
試合はそのまま5回表を迎えた。
稲本投手はランナーを出しながらも、何とか粘っていた。
しかしこの回、ツーアウト一、三塁のピンチから、ショートのエラーで同点に追いつかれてしまった。
今日は僕、もう帰っていいですか。
天中殺みたいな日なんですけど…。
決して手を抜いているわけではない。
眼の前でバウンドが変わり、打球を弾いてしまったのだ。
打っては2三振、守っては失点につながる2つのエラー。
全く良いところがない。
このまま出場し続ければ、更にチームに迷惑をかけてしまう気がする。
5回裏、ツーアウトランナー無しの場面で僕の打順を迎えた。
バッターボックスに向かう際にベンチを見たが、代打はなさそうだ。
正直なところ打てる気がしない。
だが僕にできることをやるだけだ。
僕はいつもより握りこぶし一つ分、短くバットを持った。
初球、真ん中低めへのストレート。
見送った。
ボール。
2球目。
外角へのツーシーム。
これも見送った。
判定はボール。
3球目。
内角高めへのストレート。
見送った。
これはストライク。
4球目。
外角低めへのツーシーム。
これは打ちに行ったが、ファール。
5球目。
フォークを予想しつつ、ストレートも頭に入れていた。
やはりフォーク。
手が出そうになったが、見送ってボール。
これでフルカウントになった。
6球目。
外角低めへのストレート。
何とかバットに当てた。
ファール。
7球目。
内角低めへのストレート。
これもファールで逃げた。
今の僕には粘ることしかできない。
我慢比べだ。
8球目。
ストレートか。
いや、チェンジアップだ。
完全に裏をかかれた。
懸命にバットを止め、何とか当てた。
ファール。
円城寺投手がチェンジアップを投げることは頭になかった。
我ながら、良くバットに当てた。
9球目。
ど真ん中へから、ボールゾーンに落ちるフォーク。
これも辛うじてバットに当てた。
どこからともなく、「いい加減、前に飛ばせ」という野次が聞こえる。
申し訳ないが、プロとして今の僕にできることをやらせてもらう。
10球目。
真ん中高めへのストレート。
見極めた。
判定はボール。
僕は何とかフォアボールを勝ち取った。
続くバッターは今日2打点の谷口。
初球のストレートを捉えた打球はレフトに上がった。
ツーアウトなので、打った瞬間スタートを切った。
良い当たりだったが、打球はレフトの正面。
結局この回は無得点に終わった。
そして試合は2対2のまま、8回裏を迎えた。
この回は熊本ファイアーズのマウンドには、江里口投手が上がっている。
ストレート、スプリット、スライダーが持ち玉の投手だ。
以前、対戦した時は抑えであったが、今期はセットアッパーとして君臨している。
この回の先頭バッターは、絶賛13打数無安打中の僕からだ。
バットを強く握りしめ、深呼吸して打席に入った。
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