第297話 落ち込んでいる暇など無い

 川崎ライツとのアウェー2連戦は初戦勝利した勢いのまま、2戦目も制した。

 これで札幌ホワイトベアーズは15戦で7勝8敗となり、借金1で4位に浮上した。


 次は移動日を挟んでのホーム6連戦。

 熊本ファイアーズ、仙台ブルーリーブスとのそれぞれ3連戦だ。

 

 熊本ファイアーズと1勝1敗で迎えた、3戦目。

 僕は今日もスタメン出場となった。

 あえて「今日も」と言ったのは、川崎ライツとの2試合目以降、3試合全くヒットを打てていないのだ。


 川崎ライツとの初戦に、セカンドへの良い当たりを与田選手に好捕されてから、どこに打っても野手の正面をついてしまう。

 今日の試合を迎える時点で、16試合に出場し、63打数15安打。

 最後にヒットを打ってから、11打数無安打で打率も.238まで降下していた。

(この間、フォアボールは2つ選んでいる)


 それでもチームが好調なのは、2番に入っている谷口が好調を維持しているのが大きい。

 僕が無安打の3試合の間、11打数5安打と大暴れし、シーズン通算でも15試合で51打数17安打で打率.333としていた。

 打率ランキングでも5位につけている。


 さて今日のスタメンは以下のとおり。


 1 高橋(ショート)

 2 谷口(レフト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 下山(センター)

 6 西野(ライト)

 7 光村(セカンド)

 8 上杉(キャッチャー)

 9 稲本(ピッチャー)


 7番に昨秋のドラフトで4位指名を受けて入団した、光村選手がプロ入り始めてスタメンとなった。

 ルーキーであるが、大卒社会人経由のため、僕と谷口と同年代である。

 実は高校三年生の時、甲子園で対戦したことがあり、僕らが5対3で勝ったものの、光村選手にはサイクルヒットを打たれた。

(この試合後、山崎が荒れたのは言うまでもない)

 8年の時を経て、同じチームで、二遊間を守ることになるとは、縁とは面白いものだ。


 また8番キャッチャーには、今日は、上杉捕手がスタメンとなった。

 武田捕手と上杉捕手も同年代であり、レギュラーの座を激しく争っている。

 武田捕手は球界屈指の強肩を誇るが、上杉捕手はバッティングとリードに定評がある。

 口の悪い人は、足して2で割ると、素晴らしいキャッチャーが出来上がると言っている。

 ついでに言えば、この正捕手争いは、ファンの間からは川中島の戦いと呼ばれている。


 さて与太話はこれくらいにして、試合の話に戻る。

 熊本ファイアーズの先発は、円城寺投手。

 150km/hを越える速球とフォークが持ち味の右腕だ。

 過去に交流戦で対戦したことがある。(第111話)


 1回表は稲本投手がランナーを出したものの、無失点に抑えた。

 1回裏、僕からの打順だ。

 初球、いきなりフォーク。

 見送ればボール球だったが、振ってしまった。


 2球目。

 外角へのストレート。

 打ちに行ったが、ファール。

 素晴らしいストレートだ。

 やばい、簡単に追い込まれた。


 3球目。

 ストレートを頭に入れつつ、フォークを意識した。

 すると投球はスローカーブ。

 全く意識していなかったので、見逃してしまった。

 低めに決まって、見逃しの三振。

 これで12打数連続ヒット無し。

 僕はトボトボとベンチに帰った。


 ファンの鬱憤は次の谷口が晴らしてくれた。

 ツーボール、ワンストライクからのストレートを見事にレフトスタンドに放り込んだ。

 谷口らしく、目の醒めるようなライナー性の当たりだった。

 

 僕はベンチ前でホームインした、谷口を祝福した。

 谷口は僕の肩を叩き、「大丈夫だ。次はお前の番だ」と言った。

 そうだ。

 プロとして試合に出ている以上、落ち込んでいる暇などない。

 また次があるさ。

 かって、同僚だったトーマス・ローリー選手に、同じことを言われた事を思い出した。

 

 

 

 



 

 


 

 

 

 

 

 

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