第397話 数少ないチャンスを活かしたい

 次のカードは岡山での岡山ハイパーズ三連戦。

 岡山へは、熊本から博多乗り継ぎで新幹線で向かう。

 

 予想はしていたものの、新幹線の中で爆睡してしまい、危うく岡山を乗り過ごしてしまうところであった。

(谷口が平手でひっぱたき、起こしてくれた。

 今度、覚えてろよ)

 もし集合時間に遅刻しようものなら、この遠征の間、ホテルから試合時以外は外出禁止になってしまう。危ない危ない。

 

 さて岡山ハイパーズ三連戦の初戦はベンチスタートだったが、7回表にフォアボールで出塁した、ロイトン選手の代走として出場し、その裏からセカンドの守備に入った。

 

 点差は2対3で一点のビハインド。

 もしかすると9回表に僕まで打席が回るかもしれない。


 7回裏、この回から登板の五香投手が先頭バッターの高輪選手をヒットで出した。

 そして次のバッターの吉成捕手はうまくピッチャー返しし、五香投手も懸命にグラブを出したが、打球はその先を抜けていった。


 だが残念、そこには高橋隆介。

 うまく回り込んでグラブの先に打球を収めると、そのままショートへトス。

 ベースカバーに入った湯川選手が二塁ベース上で捕球し、そのまま一塁に転送した。

 ダブルプレー。

 五香投手はマウンドで手を叩いて、喜んでいる。


 センターに抜けていれば、一塁ランナーは三塁に進み、ノーアウト一三塁のピンチを背負っていたかもしれない。

 それがツーアウトランナー無しである。

 

 我ながらビッグプレーだ。

 球団の査定担当の方、ちゃんと見ていますか?

 もし、この試合逆転したら、プラス査定お願いしますね。


 五香投手は後続を抑え、マウンドを降りた。

 そして試合は、2対3のまま、9回表を迎えた。


 打順は3番の道岡選手からであり、ランナーが一人出ると、僕に打順が回る。

(僕はロイトン選手の替わりに、6番に入っている)


 そして僕の願いが叶ったのか、ツーアウト三塁のチャンスで僕の打順を迎えた。

 一打同点だが、凡退すると試合終了。

 プレッシャーのかかる場面だ。


 岡山ハイパーズのマウンドは抑えの切り札、木地投手。

 コンスタントに150km/hを超える直球と、落差の大きいフォークが厄介な右腕だ。


 右対右でもあり、僕にとっては苦手なタイプの投手だ。

 だがこのようなチャンスを掴まないと、レギュラー奪取は覚束ない。

 僕はバットを握りしめ、バッターボックスに入った。


 代打は出されず、打たせてくれるようだ。

 ベンチのサインは「打て」。

 それはそうだろう。

 セーフティースクイズもあり得なくはないが、ここはリスクが高い。


 初球。

 外角へのストレート。

 見送ったが、ストライク。


 2球目。

 今度は真ん中高めへのストレート。

 バットを出したが、ファール。

 2球で追い込まれてしまった。


 僕はタイムを取り、一度バッターボックスを外した。

 次はフォークかストレートか。

 チェンジアップやツーシームもあり得なくはない。

 はっきり言って、完全にピッチャー有利の場面。絶体絶命だ。


 こういう時は開き直るに限る。

 球種を絞らないと前に飛ばすのは困難である。

 僕はストレートに的を絞った。


 3球目。

 外角へのチェンジアップ。

 ストレートのタイミングで待っていたので、完全に裏を書かれた。

 僕は体勢を崩しながら、辛うじてバットに当てた。

 ファール。

  

 4球目。

 今度はフォークだ。

 見逃してボール、…というよりも手が出なかったが、結果オーライだ。

 これでカウントはワンボール、ツーストライク。


 5球目。

 真ん中高めへのストレート。

 何とかバットを出すのを我慢した。

 判定はボール。

 これでツーボール、ツーストライクとなった。


 6球目。

 ストライクゾーンから、ボールゾーンに落ちてくる落差の大きいフォーク。

 だが僕は何とかついて行き、バットに当てた。

 打球はフラフラとショート後方に上がっている。

 ショートの上川選手が懸命に追っている。

 頼む、落ちてくれ。


 僕は祈るように打球の行方を横目で見ながら、一塁に向かって走りだした。


 そして打球は上川選手のグラブの先を掠め、グラウンドに弾んだ。

 やったー。

 今シーズン、初ヒットが起死回生の同点タイムリーだ。

 僕は一塁ベース上で、ガッツポーズした。


 

 

 


 

 

 

 

 

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