第398話 勝ち越しなるか

 9回表ツーアウトから、同点に追いついた。

 そしてツーアウトながらランナー一塁。

 僕が二塁に進んだら、勝ち越しの大チャンスとなる。

 次のバッターは曲者の西野選手。

 僕は大きくリードを取った。


 木地投手は立て続けに、3球牽制球を投げてきた。

 もちろんいずれも僕はすぐに帰塁した。

 ここで牽制死をするわけにはいかない。


 そして初球。

 僕はスタートを切った。

 吉成捕手からの送球は、ややレフト側に逸れ、二塁は悠々セーフ。


 ツーアウト二塁、勝ち越しのチャンスだ。

 そして西野選手はフルカウントからフォアボールを選んだ。


 次のバッターが打撃が不得意な武田捕手ということで、最後は勝負を避けたように見えた。

 そしてここを勝負どころと見たのか、札幌ホワイトベアーズベンチは、代打に左の今泉選手を送った。


 今泉選手は今や左の代打の一番手になっており、とても勝負強い。

 守備はあまり得意でないので、まさに一振にかけていると言えよう。


 初球。

 外角へのチェンジアップ。

 バットはピクリとも動かない。

 ボールワン。

 さすがだ。


 2球目。

 内角へのストレート。

 やや体の近くを通り過ぎたが、これにも反応しない。

 カウントはツーボール。

 マウンドの木地投手もさすがに苦しそうである。


 3球目。

 真ん中高めへのストレート。

 見逃したが、判定はストライク。

 ツーボール、ワンストライクのバッティングカウントだ。


 岡山ハイパーズバッテリーは、次は何とかファールを打たせ、最後は決め球のフォークで三振という算段か。


 4球目。

 外角低めへのストレート。

 ファール。

 今泉選手はカットした。

 これでツーボール、ツーストライク。

 追い込まれた。

 最後はフォークか。


 5球目。

 やはりフォークだ。

 ストライクゾーンからボールゾーンに変化する、木地投手の代名詞とも言えるボールだ。


 今泉選手は体勢を崩されながらも、何とかバットに当てた。

 ファール。

 凄いバットコントロールだ。

 並の打者なら今のボールで三振しているだろう。

 フォークが来ると、わかっていても前に飛ばすのが難しい球だ。


 6球目。

 またもフォーク。

 これもファール。

 行き詰まる対決になった。

 ランナーの僕としては投球の都度、走りかけたり、塁に戻ったり。

 ちょっと疲れた。


 そして7球目。

 外角低めへのストレート。

 今泉選手はバットを振らなかった。

 一拍置いて、判定はボール。

 かなり際どいボールだった。

 見極めたのか手が出なかったのか。

 いずれにせよ、スリーボール、ツーストライクのフルカウントになった。


 ツーアウトでもあるので、ランナーは投球と同時にスタートを切る。


 そして8球目。

 フォークだ。

 今泉選手はバットに当てた。

 強いゴロが三遊間に転がっている。


 ショートの上川選手が懸命に追ったが、そのグラブの僅か先を打球はレフトに抜けていった。

 僕はそれを横目に見ながら、三塁を蹴った。

 レフトは前進守備を敷いていたが、投げた瞬間スタートを切っていたこともあり、ホームは悠々セーフ。

 見事に勝ち越した。


 今泉選手は普段は感情をあまり表に出さないが、一塁上で軽くガッツポーズした。粘り勝ちだろう。


 試合はそのまま4対3で、札幌ホワイトベアーズが勝利した。

 なお、今日も新藤投手は9回裏を3人で抑えた。

 今季は安定している。(今のところは)

 劇場を期待しているファンの方々は、ちょっと残念かもしれない。


 勝利の瞬間を僕はセカンドの守備位置で迎え、勝利のハイタッチに加わった。

 今シーズン初めてチームの勝利に貢献できた気がする。


 もしホームゲームだったら、僕もヒーローインタビューに呼ばれたかもしれないが、アウェーなので今泉選手だけだ。


 いずれにしても今季初ヒット、初打点。

 2打数1安打なので、打率.500。

 うーん、いい響き。

 明日も出場機会があれば、結果を残したい。

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

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