第111話 夢の対決?
僕は急遽、スタメンを告げられたが、いつでも試合に出られる準備はしている。
だから待っていました、という心境ではある。
今シーズン3回目のスタメンだ。
この機会をものにして、伊勢原選手が戦列を離れている間に、スタメンに定着したい。
今日のスタメンは以下の通りだ。
1 岸(センター)
2 山形(ライト)
3 トーマス(セカンド)
4 岡村(ファースト)
5 本郷(サード)
6 金沢(レフト)
7 生田(キャッチャー)
8 大和(ピッチャー)
9 高橋隆(ショート)
サードのスタメンは本郷選手。
大卒5年目で、長打力が売りの選手だ。
金沢選手と同様に、泉州ブラックスに入団当初から、何かと気にかけてくれている。
僕がチームに早く溶け込むことができたのも、このような先輩方のおかげだと思っている。
投手の大和投手は、アンダースローの変則右腕。
多彩な変化球と緩急の差で打者を打ち取るのが、持ち味だ。
シーリーグのホームゲームのため、指名打者がなく打席に入る。
キャッチャーの生田選手は昨秋のドラフト3位で入団した選手で、今日がプロ初スタメンである。
大卒なので、僕と同年代だ。
「イク、俺も今日スタメンだから、頑張ろうな」
初スタメンで緊張している生田捕手に軽く先輩風を吹かせてみた。
「おお、隆。
やばいよ、足が震えている」
「大丈夫だ。失敗しても、それがまた成長に繋がる」
「さすが、チーム最終戦で牽制死して、シーズンを終わらせた経験がある奴の言うことは違うな。含蓄がある」
何でその事実を知っているんだ……。
ところでガンチクって何?
ガンモドキとちくわの略か?
そう言えばおでん、食べたいな。
静岡おでんが懐かしい。
熊本ファイアーズのスタメン。
平井は7番ファーストでスタメンだった。
前カードに続いて、群青大学付属高校卒業生同士の夢の対決……と思っているのは、僕と平井だけか。
熊本ファイアーズの先発は、円城寺投手。
150㎞/hを越える速球と、フォークが持ち味の投手だ。
ここまで3勝負け無しと好調である。
初回の表、泉州ブラックスの攻撃は三者凡退に終わった。
その裏、熊本ファイアーズ打線がいきなり爆発し、2点を奪い、更にツーアウト一三塁の場面で、バッターボックスには平井が入った。
ここでもし一発が出れば、泉州ブラックスにとっては、更に苦しくなる。
初球。
大和投手得意のシンカー。
平井はいきなり真芯で捉えた。
打球は三遊間にライナーで飛んできた。
抜ければもう1点失う。
僕は夢中で真横に飛びついた。
どうだ。
ボールはグラブの端で掴んでいた。
やったぜ。
ファインプレーだ。
熊本ファイアーズファンの悲鳴と、泉州ブラックスファンの歓声が入り乱れる。
平井が一塁ベースを走り抜けたところで、天を仰いでいるのが見えた。
悪いな。
僕も一軍に生き残るのに、必死なんでね。
3回の表、ツーアウトから僕の打順が回ってきた。
ここまで泉州ブラックスは、円城寺投手の前に一人のランナーも出していない。
僕はセーフティバントをする事を思いついた。
ファーストの平井は守備が得意ではない。
これはチャンスだ。
初球。
低目へのフォーク。
僕は余裕を持って見逃した。
ワンボール。
やるなら次の球だ。
2球目。
ストレートだ。
僕はバットを横にして出した。
ところが平井がホームベースに向かってダッシュしてきた。
バントした球がファースト方向に転がった。
平井は素手で掴み、一塁ベースカバーに入ったセカンドに投げた。
余裕でアウト。
完全に読まれていた。
ベンチに戻りながら、平井の方を見ると、ニヤリと笑っていた。
悔しいが、こいつも成長しているということか。
試合は熊本ファイアーズが3回と4回に2点を追加し、6対0のまま、5回の裏を迎えた。
この回の先頭は平井からだ。
平井は第2打席は三振しており、ここまで2打数ノーヒット。
ここは1本欲しいところだろう。
マウンドは3番手の杉田投手。
最近はビハインドの場面で投げることが多くなっている。
ツーボール、ノーストライクからの3球目。
内角低めへのストレートを捉えた打球は、ライトに上がった。
大きい当たりだが、伸びはない。
平井は内角低めが弱点なのだ。
もちろん、彼なりに弱点を克服すべく努力を重ねているのだろうが、中々結果には結びついていない。
「お互い頑張ろうな」
悔しそうにベンチに戻る平井を見ながら、僕は呟いた。
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