第110話 ヒーローインタビューⅡ

「放送席、放送席。

 本日のヒーローインタビューは、今季第一号、そして決勝ホームランを打った、泉州ブラックスの高橋隆介選手です」

 相手は女性のアナウンサーだった。

 

 ワー、パチパチパチ。

 アウェーとあって、一塁側やライト側はほとんど空席となっているが、三塁側とレフト側の泉州ブラックスファンは残ってくれている。

 僕の名前と背番号が書いたタオルや、中には手作りのパネルを掲げてくれている方もいて、僕もプロ野球選手として認知されるようになったと思うと、感慨深いものを感じる。

 

「決勝ホームラン、レフトスタンド中段への素晴らしい当たりでしたね」

「は、はい、歯ごたえ抜群でした」

「手ごたえですね」

 つい言い間違えてしまったが、アナウンサーがフォローしてくれた。

 今回も緊張している。

 

「山崎投手とは高校時代のチームメートということで、特別な意識があったんじゃないでしょうか?」

「は、はい。あ、いや、いえ。や、山崎ごときの球を打てないようでは、この先プロでやっていけないと思っていました」

 考えてみると、一軍半の選手が今や人気球団京阪ジャガーズのエースをつかまえて、「ごとき」というのも変かもしれない。

 

「打ったのはスプリットでしょうか?」

「は、はい、や、山崎のス、ストリップは高校時代に見慣れていたので、狙っていました」

 女性アナウンサーの顔色が変わった。

 何か変な事を言ったか?

 

「う、打った瞬間の感触はいかがでしたか?」

「打った瞬間ですか。当たったと思いました」 

「ホームランになると思いましたか?」

「は、はい、入ってくれと願いながら、走りました」

「レフトスタンドに打球が飛び込んだ時のお気持ちは?」

「え、あの、ホームランだと思いました」

「そ、そうですか。

 本日のヒーロー、決勝ホームランを打った高橋隆介選手でした」

 またしても強引に打ち切られた。

 

 でも前回よりはマシだったのではないだろうか。

 しかし何でだろう。

 またしても僕のヒーローインタビューがSNSで話題になったらしい。不思議だ。

 今回は何も変な事を言っていないと思うが。


 とにかくプロ2本目のホームランを、しかも山崎から打てたのはとても嬉しい。

 これで二軍落ちの危機はひとまず乗り越えたようだ。


 翌日の試合は7回から途中出場したが、1打数ノーヒットに終わった。

 なかなか好結果が続かない。


 交流戦の次のカードは、引き続きアウェーでの熊本ファイアーズ戦。

 熊本ファイアーズにはゴリラが選手として所属しているが、今は農場?(ファーム)で暮らしているようだ。

 パワーはあるが、確実性が不足しており、最近は出場機会が減っているようだ。

 

「よお、元気そうだな」

「あれ?、俺、間違えて二軍の球場に来てしまったか?」

「ちげぇよ。今日、一軍に昇格した」

 声をかけてきた相手は、おなじみの高校時代のチームメート、ゴリラ平井だ。

 

「山崎からのホームラン、おめでとう。

 最後にプロでの良い思い出ができて良かったな」

「最後じゃねえ。

 ここから俺のサクセスストーリーが始まるんだ」

「そうか、そうか。

 夢は大っきい方が良いよな」

「お前こそ、結構やばいんじゃねぇ?」

 平井はプロ2年目に7本、3年目に10本のホームランを打ったが、4年目の昨年は4本、今年はまだ出場機会無しと、伸び悩んでいた。

 

「うーん。そうなんだよな。

 最近は苦手なところばかり、投げられるんだ。

 2軍でも打てなくなってきた」

 平井は2軍でも15試合でホームラン1本と元来の長打力が影を潜めていた。

 

「打席で考えすぎているんじゃねぇの。

 お前は人一倍頭が悪いんだから、頭をカラッポにして打てば良いんじゃねぇ?」

「隆には言われたくねぇな。

 俺、高校時代、隆よりは成績良かったと思うぞ。

 少なくとも名前を漢字で書けたし」

 僕は高校時代、テストの答案で自分の名前を書き間違えて、笑われた事がある。

「名前を書ければ受かる」と言われる、天才バカボンのバカ田大学にさえ、入れないと。

 

「良かったな。お前は野球の才能が少しだけあって。

 普通の仕事はとても勤まらないだろう」

「うるせぇ。俺は少なくとも人間だ。ゴリラには言われたくない」

 というように、今日も試合前に和やかに旧交を温めた。

 

 今日の試合は、僕はスタメン出場は予定されていない。

 試合前練習を終え、軽食を取った後、バックスペースでストレッチをしていた。

 

「あ、いたいた。おい、高橋」

 栄ヘッドコーチだった。

「は、はい。何でしょうか」

「お前、今日、急遽スタメンになった。

 伊勢原がバッティング練習中に肉離れを起こした」

 思いがけず、突然チャンスが回ってきた。

 


 


 

 


 

 

 

 



 

 

 

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る