第109話 令和の名勝負?

 山崎とのプロに入っての2回目の対戦。

 さっきは僕にヒットを打たれたので、今回はなりふり構わず抑えに来るだろう。

 山崎はそういう奴だ。


 僕はバッターボックスに入る前にどの球を狙うか、考えた。

 あまり認めたくないが、今の山崎は一流のピッチャーである。

 狙い球を絞って、その球がうまい具合に来たとして、それを捉えるのは簡単では無い。

 ましてや、狙い球を絞らないで打てるような投手では無い。


 ストレート、スライダー、カットボール、スプリット、カーブ。

 どの球を狙えば良いだろう。


 初球。

 外角へのスライダー。

 ぎりぎりに決まった。

 ストライク。

 凄い変化だ。


 2球目。

 ど真ん中へのストレートと思いきや、スプリット。

 ファールにするのが、精一杯だった。

 2球で追い込まれた。


 3球目。

 カーブも頭を掠めたが、頭から除いた。

 もしカーブのタイミングで待っていたら、他の球が来たら打てない。

 カーブが来たらごめんなさいだ。

 投球は内角高目へのストレート。

 ぎりぎり外れた。

 ボール。

 これでワンボール、ツーストライク。


 4球目。

 外角へまたスライダー投げてくるか。

 それとも裏を書いて、また内角へカットボールあたりが来るか。

 ところが投球は真ん中へのスプリットだった。

 この球を待っていた。

 山崎の性格から言って、空振りの三振を狙いに来る。

 僕は確信していた。

 思いっきりバットを振った。

 ボールの変化量も予想どおりだ。

 真芯に当たった。

 ここしばらく無かった、会心の当たりだ。

 打球は良い角度でレフトへ飛んでいる。

 僕は一塁に走りながら、打球の行方を見た。


 打球はライナーでレフトスタンド中段に飛び込んだ。

 今シーズン第一号だ。


 山崎はガックリと、片膝をマウンド上についていた。

 

 だから言っただろう。

 お前の球は高校時代に見慣れているって。

 僕はホームインの瞬間、右手で軽くガッツポーズした。

 そして次のバッターのトーマス選手とハイタッチした。


 ベンチに帰ると、チームメートが満面の笑みで迎えてくれた。

 朝比奈監督も笑みを浮かべて、肯いていた。

 俺の采配が当たっただろ、とでも言いたげな表情だ。


 昔の山崎ならこの後、熱くなって力むところだが、さすがプロで活躍しているだけのことはある。

 後続のトーマス選手を落ち着いて、ライトフライに打ち取った。


 試合は4回、5回と両チームともランナーは出すものの無得点に終わり、僕のソロホームランの1対0のままで、6回の表を迎えた。

 

 この回は2番の僕から始まる。

 マウンドにはまだ山崎が続投している。

 奴と3回目の勝負だ。

 2打数2安打、ホームラン1本。

 ここまでは僕の圧勝だろう。


 僕が打席に入ると、山崎は一瞬笑みを浮かべた。

 きっとプロの舞台でこのように対戦できることを楽しんでいるのだろう。


 初球。

 内角へのカットボール。

 見送って、ワンボール。


 2球目。

 またしても内角へのストレート。

 仰け反って避けた。

 おい。

 僕は山崎を睨んだ。

 当てたらどうなるかわかっているんだろうな。


 3球目。

 外角へのスライダー。

 ぎりぎりに入った。

 これでツーボール、ワンストライク。


 4球目。

 ど真ん中へのストレート。

 僕は強振した。

 しかしバットは砕け散り、打球はセカンドゴロとなった。

 手にはしびれが残っている。

 スピードガン表示は、163㎞/h。

 山崎は一層、ギアが入ったようだ。


 僕は一塁アウトになった後、マウンドの山崎の方を見た。

 山崎はファーストからの送球を受け取りながら、こっちを見て、ニャリと笑った。

 僕も一瞬笑ったと思う。

 良い勝負だった。


 山崎はこの回で降板し、試合は8回に追加点を上げた、泉州ブラックスが2対0で勝利した。


 ということはヒーローインタビューは?

 もちろん僕が呼ばれた。

 プロに入って2回目だ。

 前回はあまりうまく喋れなかったので、今回はその反省を活かしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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