第426話 スランプと守備走塁との関係に関する一考察
バッティングと異なり、守備や走塁にはスランプが無いという人がいる。
だが僕はちょっと違うと思っている。
スランプが無いのではなく、一流選手はバッティングの調子を守備や走塁に持ち込まないようにしているだけだと思う。
つまり切り替えが上手いのだろう。
バッティングが好調の時は、気分が乗っているので守備や走塁でも良いプレーがでる。
一方でバッティングの調子が悪いときは、気分が乗らず、守備や走塁で精彩を欠く。
もちろんそうならないように様々な対策を試みるが、なかなか思うようにならないのもまた事実である。
4回表、僕はショートゴロを一つ、内野安打にしてしまった。
三遊間を抜けそうな当たりに追いついたまでは良かったが、捕球した後の一塁送球がやや逸れたのだ。
ファーストのダンカン選手が懸命に手を伸ばして捕球してくれたが、足が一塁ベースから離れてしまった。
記録は内野安打となったが、僕自身としてはエラーに限りなく近いプレーだったと思っている。
こういうプレーを確実にこなさいと、湯川選手とのレギュラー争いに勝ち抜くことはできない。
この回、青村投手は静岡オーシャンズの高橋孝司選手にツーランホームランを浴び、3対0となってしまった。
チームも今日は劣勢だ。
どこかで空気を変えたい。
試合は3対0のまま、6回に入った。
青村投手は劣勢の中、懸命に粘っており、6回表もツーアウトまで持ってきた。
静岡オーシャンズのバッターは、8番の原谷捕手。
今日は打っては先制ホームランとセンター前ヒット、守っては田部投手を好リードと、乗りに乗っている。
このまま試合が終われば、今日の試合後の食事は原谷さんの独演会になってしまう。
それだけは避けねば…。
1打席目のホームランは、青村投手の完全な失投であり、2打席目のヒットは打球の飛んだコースが良かった。
つまり原谷さんは今日はついている。
ここらで止めてやらないと、僕の精神安定上、良くない。
この打席、原谷捕手ツーボール、ツーストライクの5球目を捉えた打球が三遊間に飛んできた。
これも抜けそうだ。
もしショートが僕でなかったらね…。
三遊間の深いところで打球に追いつくと、踏ん張って一塁に送球した。
もし俊足のバッターなら完全に内野安打だったが、相手は原谷捕手。
余裕で間に合った。
原谷さんは一塁ベースを駆け抜け、アウトとなったのを確認するとスゴスゴとベンチに下がっていった。
刺されるような鋭い視線を感じたが、僕はそちらの方を見ないようにした。
そして6回裏、この回の先頭バッターは僕だ。
チームは田部投手の前に2安打(フォアボール1つ)に抑えられている。
ここは何とか塁に出て、チャンスメークしたい。
僕は打席に入る前にチラッと原谷捕手の方を見た。
原谷捕手もマスク越しに僕の方を見たが、その表情は読み取れなかった。
初球。
いきなりスローカーブだ。
意表をつかれ、見逃してしまった。
ストライクワン。
2球目。
これまでの投球パターンを考えると、内角に食込むスライダーか、ストレートか。
ところが予想に反し、外角へのスクリューボール。
これも見逃してしまい、ストライクツー。
2球で追いこまれてしまった。
3球目。
内角へのスライダー。
これは見送ってボール。
ということは次は外角への投球か。
4球目。
外角低目へのストレート。
ファールで逃げた。
カウントはワンボール、ツーストライクのまま。
5球目。
内角へのスライダー。
仰け反って避けた。
これでツーボール、ツーストライクの平衡カウント。
6球目。
外角へのスクリューボール。
うまく右方向に打ち返した。
打球はライト線に飛んでいる。
よし、落ちればツーベースだ。
ところがライトの高橋孝司選手が横向きにダイビングした。
一か八かのプレーだろう。
どうだ?
僕は一塁を蹴ったところで横目で打球の行方を確認した。
一塁塁審が腕を上げた。
アウト。
高橋孝司選手はキャッチしていたようだ。
良いバッテングだったのに…。ついていない。
僕は天を見上げて、ベンチに戻った。
これで8打数ノーヒット。
どこまでトンネルが続くか…。
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