第481話 試合終了後のあれこれ

 優勝が決まり、球場内を一周した。

 アウェーであり、しかも応援熱心な京阪ジャガーズファンが大勢を占める中ではあるが、思いのほか、京阪ジャガーズファンからも暖かい拍手や声援を受けた。

 試合が終われば、ノーサイドということだろうか。

 

 そしてこの球場では希少な(?)、札幌ホワイトベアーズファンの応援席に行くと、とりわけ大きな声援、そして拍手を受けた。

 わざわざ札幌から大阪まで、応援に来るような酔狂な方々である。

 熱狂的な札幌ホワイトベアーズファンだろう。


 外野席の後ろの方に、遠目に翔斗を抱えた結衣と三田村夫妻の姿が見えた。

 表情はよくわからないが、喜んでくれているのは間違いない。


 そしてそれが終わると、京阪ジャガーズのシーズン終了のセレモニーが行われる。

 そのため、僕ら札幌ホワイトベアーズナインはベンチに引き上げた。


 新川広報によると、この後は主力選手の合同記者会見、そしてホテルでの祝勝会、つまりビールかけがあるそうだ。

 僕は規定打席にも到達していないし、記者会見には呼ばれないだろう。

 なおビールかけはユニフォームを来て行うそうなので、洗いたての新しいホームユニフォームに着替えることになる。


 ロッカールームに戻ると、谷口、五香選手とハイタッチをした。

 そう言えば、バタバタしていて気づかなかったが、今日の試合の勝ち投手は11回裏を抑えた稲本投手、そしてセーブは五香選手についた。


「お前、最後の最後にいいところ持っていったな」

「いやー、自分でもこんな結末思ってもみたかったぜ。

 まさか優勝のマウンドに立つなんてな」


 五香選手はシーズン途中で二軍降格となり、苦しい時期もあったと思うが、最後に代打でヒットを打ち、優勝の瞬間にはマウンドにいた。

 まさに「終わり良ければ全て良し」を体現するようなシーズンだったであろう。


 そして谷口は初めて規定打席に到達し、打率.261、ホームラン17本、打点48と自己最高の打撃成績を残した。

 特筆すべきは犠打31という数字だろう。

 バントのできる中距離砲という、プロ野球界でも稀有な立ち位置を築いた。

 でも本人は不満らしい。

 規定打席に達したら、軽くホームラン20本は打てると思っていたそうだ。

 まあそれは来年に取っておけ。


 そして僕は120試合に出場し、306打数93安打で打率.304、ホームラン6本、打点38、盗塁25(盗塁死9)の成績を残した。

 湯川選手の入団や、光村選手の成長、序盤のロイトン選手の好調等により、シーズン前半はなかなかスタメン出場が増えず、苦しい時期もあった。

 

 しかしながら後半はほぼスタメンに定着し、打率3割越えを果たした。

 チームも優勝し、良いシーズンだったと言えるのではないだろうか。

 来季は規定打席に到達しての打率3割が第一目標。

 そして盗塁王、ゴールデングラブ賞も一度はとってみたい。

 僕はロッカールームのソファーに座って、タオルで汗を拭き、スポーツドリンクを飲みながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。


「おい、バカ橋と谷口はいるか」

 せっかく静かに今シーズンを振り返っていたのに、新川広報のダミ声に虚しくも静寂が破られた。

 一体なんだっつうんだ。

「はい、なんざんすか」

 僕は手を挙げて答えた。

 

「記者会見だよ。

 お前と谷口も一応、主力として参加してもらう」

「え、僕もですか?」

「ああ、俺も全国に我がチームの恥を晒したくないが、今日の試合で理由のわからない活躍をしたのは確かだ。

 番記者たちからも、バカ橋の談話を聞きたいという声が上がっている」

 お呼びとあっちゃあ、仕方が無い。

 面倒くさいと思いつつも、僕は重い腰を上げた。


 記者会見場を袖から見ると、長いテーブルに椅子が10脚くらい置いてあった。

 そして既に多くの記者、そしてカメラマンが集まっている。


 記者会見は大平監督を始めとして、道岡選手、ダンカン選手、下山選手、武田捕手、青村投手、新藤投手、そして僕と谷口、湯川選手ということだ。


 準備ができ、僕らは袖から順に出て、一礼をして席に座った。

 僕は向かって右から2番目であり、両隣は谷口と湯川選手である。

 

 カメラのフラッシュがパチパチと眩しい。

 こんなに多くのカメラに囲まれるのは初めてだ。

 入団会見の時や、トレードで札幌ホワイトベアーズに移籍した時の記者会見の時に比べても格段に多い。


 「それでは札幌ホワイトベアーズ、優勝会見を始めます」

 司会のアナウンサーの発声により、記者会見が始まった。

 


 

 

 

 

 

 

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