第315話 胸熱の展開?
翌日の静岡オーシャンズとの試合は、1対0で敗れた。
僕は4タコ、谷口も3タコでフォアボール一つ。
静岡オーシャンズ先発の北岡投手の前に、チーム全体でもヒット3本しか打てなかった。
札幌ホワイトベアーズの先発、庄司投手も7回1失点と粘ったが、黒沢選手に打たれたソロホームランだけが失投だった。
2連敗で迎えた第3戦。
札幌ホワイトベアーズは奇襲に出た。
何と先発に、今シーズン初先発の五香投手を立てたのだ。
僕は札幌ホワイトベアーズ首脳陣の心中を訝しんだ。
連続して1点差ゲームを落として、ヤケになったのか?
五香投手はキャンプでは、ほぼ一軍に帯同していたが、開幕前に二軍落ちした。
そして二軍では投手として5試合に先発して、防御率が6点台とあまり良い数字を残せていなかった。
バッターとしては、打率.286を残しているので、てっきり打者として一軍に昇格したのかと思っていたら、いきなりの先発である。
うちのチームの首脳陣は何を考えているのやら…。
静岡オーシャンズとの3戦目のスタメンは次の通りである。
1 高橋(ショート)
2 谷口(指名打者)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 ロイトン(セカンド)
7 西野(ライト)
8 上杉(キャッチャー)
9 野中(レフト)
ピッチャー 五香
五香投手は投打の二刀流への挑戦を継続しているので、折角なら指名打者を使用しない、ホームゲームで投げた方が良いと思うが…。
そして静岡オーシャンズの先発は…、な、な、何と、杉澤投手。
五香投手と杉澤投手が投げ合う日が来るとは…。
そしてキャッチャーは、原谷さん。
この話を最初から読んで頂いている方には、胸熱な展開ではないだろうか。
え?、そうでもない?
そうですか…。
僕が杉澤さんとプロの公式戦で対戦するのは、2回目である。
(作者注:前回は103話)
あの時は、確か3打数1安打で、打点2だった。
杉澤さんと一軍の試合で対戦するなんて、1年目のキャンプの時には想像もできなかった。
それがまさかの杉澤−原谷バッテリーとの対戦である。
しかも1番、2番は僕と谷口。
ドラフト同期で残っている4人が一度に対戦するなんて、凄いことでは無いだろうか。
きっと日本中がこの試合に注目しているに違いない。
お笑い芸人の始球式を経て、プレイボールがかかった。
初球。
カーブ。
ボールゾーンからストライクゾーンの隅にギリギリ決まった。
見逃してストライクワン。
2球目。
外角ボールゾーンから、ストライクゾーンに入ってくるスライダー。
昔の杉澤投手のスライダーであれば鋭く曲がり、内角に決まった。
ところが曲がり幅がかって程は大きく無い。
僕にとって丁度打ち頃の球に見えた。
昔の僕なら引っ張ったかもしれない。
だが今の僕は広角に打ち返すことができる。
僕は右方向に打ち返した。
打球はライナーで一二塁間の上に飛び、外野のライト線のフェアーゾーンに落ちた。
僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。
悠々セーフ。
ツーベースヒットだ。
杉澤投手はあまり表情を変えず、球審からのボールを受け取った。
次のバッターは谷口だ。
初球。
ストレート。
昔なら150km/hくらい出たが、今は130km/h台後半くらいしかでない。
谷口は引っ張った。
打球はライナーでサードの頭を越えて、レフト線のフェアーゾーンに落ちた。
僕は三塁を蹴ってホームインし、谷口は二塁に達した。
先制のタイムリーツーベースだ。
原谷捕手はマウンドに行き、杉澤投手と札幌ホワイトベアーズベンチを見ながら、何か話している。
何を言っているのかはわからないが、きっと僕と谷口の悪口だろう。
「バカ二人に出会い頭に打たれましたが、野良犬に噛まれたと思って、切り替えていきましょう」とかそんな内容に違いない。
杉澤投手は大きく頷いた。
続くバッターは3番の道岡選手。
まだノーアウト二塁。
杉澤―原谷バッテリーには申し訳ないが、勝負の世界。
畳み掛けていきたい。
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