第233話 ヒーローインタビューⅥ

 球場内にインタビュアーの女性アナウンサーの声が響き渡った。

 「放送席、放送席。

 今日のヒーローは3回に先制のホームを踏み、4回には追加点となるタイムリーヒット、そして9回には仙台ブルーリーブスファンの希望を打ち砕く、ソロホームランを打った、高橋隆介選手です」

 ずいぶん長い紹介だ。


 パチパチパチ。

 アウェーとあって仙台ブルーリーブスのファンはほとんど席を立ち、観客席はまばらになっていたが、それでもレフト側の外野席には黒いユニフォームを着た泉州ブラックスファンの一団が残っていた。

 

「今日は大活躍でしたね」

「はい、先ほどご紹介頂いて、自分でも結構活躍したんだな、とあらためて思いました」

 

「まず、3回の場面ですが、しつこく12球粘った末、フォアボールで出塁し、盗塁も決め、高橋選手がチャンスメークしたからこそ、先制点に繋がったと思いますが、その点はいかがですか?」

 なかなか良い視点だ。

 若い女性アナウンサーだが、野球を良くわかっている。

「はい、僕の役割はチャンスを作ることなので、それが先制点に繋がって嬉しいです」

 

「ノーアウト一、三塁のチャンスで、バッターはピッチャーの浜投手。

 あの場面、内野ゴロでもホームに突っ込む心づもりをしていたのでしょうか」

「はい、試合前に栄ヘッドコーチから、僕は稲城投手と正反対の選手と言われていたので、泥臭く点を取ってやろうと思っていました」

 

「確かに高橋選手らしい、泥臭い1点でしたね。

 そして4回には追加点にはタイムリーヒット。

 当たりはあまり良くなかったですか、飛んだところが良かったですね」

「はい、うまく抜けてくれました」 


「そして9回にはまぐれのホームラン。

 また嫌らしく粘るのかと思いきや、初球を打ちましたね」

「はい、狙っていました」


「今日は攻守走に大活躍でしたが、何か思うところがあったのでしょうか」

「はい、ハンコクセイシンで頑張りました」

「反国精神ですか?

 もしかして反骨精神のことでしょうか」

「はい、それです」

 スタンドが少し湧いた。

 言い間違えた。

 僕には何ら政治的な思想は無い。

 そもそも政治家どころか政党の名前もよく知らない。

 

「交流戦ということで、仙台での試合は2年ぶりですが、その点はいかがですか?」

「はい、街並みが美しく、素敵な街だと思いました。

 引退したら、ゆっくり遊びに来たいと思います」

「そうですか。

 近いうちに是非、遊びに来てください。

 最後にスタンドに残っている、仙台では希少な泉州ブラックスファンに一言お願いします」

「はい、明日、明後日と試合は続きますが、これからも活躍できるように頑張ります」

 

「今日のヒーローは泥臭く反骨精神で大活躍した、泉州ブラックスの高橋隆介選手でした」

 ワー、パチパチパチ。

 僕は帽子を取って泉州ブラックスファンに礼をして周り、ベンチに引き上げた。


 チームバスに乗りこむと、栄ヘッドコーチから丸めた新聞紙で無言で頭を叩かれた。

 これはパワハラではないのか?


 この日はホテルで牛タン定食に舌鼓を打ち、翌日の試合に備えて早めに就寝した。

 ちなみに高台捕手や岸選手は国分町というところにタクシーで向かったらしい。


 翌朝、早めに目が覚めた。

 窓から外を見ると、今日も透きとおった空が広がっていたので、ホテルの周辺を少し散歩した。

 早起きは三文の得と言われているが、朝早く新鮮な空気を胸に吸い込むと、今日も打てそうな気がしてくる。

 あくまでも気だけだ…。

 この日もスタメン出場したものの4打数ノーヒットに終わってしまった。

 これでまたしても打率三割を切ってしまった。(.289)


 翌日の試合は相手先発が、右腕ということもあり、ベンチスタートだった。

 この日は代走、守備固めも含めて出場機会は無かった。

 これで熊本、仙台遠征も終わり。

 明日は移動日で、明後日からはホームに戻っての札幌ホワイトベアーズ戦。

 そうだ、空港で結衣と妹に頼まれていたお土産を買わないと。

 有名な仙台銘菓らしい。

 そう思っていたら、次の日、コロッと買うのを忘れてしまった。

 伊丹空港に着いた場面で気がつき、妹にそのようにメールしたら、通販で買うから良いと返事がきた。

 初めからそうすれは良かったのでは…。

 

 


 



 


 


 

 

 

 


 


 


 

 

 


 

 

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