第320話 大飛球の行方
5回表、ワンアウト二塁のチャンスで、谷口が打席に入った。
今や違うチームに別れてしまったが、静岡オーシャンズに取って、8年前のドラフトの1位と2位の対決。
そしてキャッチャーはその年のドラフト5位のモブキャラ。
昔からの静岡オーシャンズファンにとっては、胸熱の勝負では無かろうか。きっと。恐らく。多分。
そして勝負は一球でついた。
初球の高めへのストレートを谷口のバットが捉えた。
良い角度でセンターに上がっている。
これは行ったか。
またしてもセンターの小田島選手が必死に背走している。
そしてそのままフェンスに衝突した。
どうだ。
捕ったか、落としたか?
固唾を飲んで見ていると、小田島選手が立ち上がり、グラブを上に掲げた。
見事に捕球していた。
大ファインプレーだ。
セカンドの野中選手は、サードの手前まで行ってたが、慌てて二塁に戻った。
だが杉澤−原谷バッテリーにとっては、まだピンチは続く。
次のバッターは、チャンスの鬼、道岡選手だ。
毎年得点圏打率は、3割を大きく上回り、打点王の経験もある。
杉澤−原谷バッテリーは、道岡選手にボール気味の球で勝負し、スリーボール、ワンストライクからフォアボールを与えた。
これでツーアウト一、二塁。
次のバッターは4番のダンカンだ。
外国人選手らしく体格が大きく、当たればスタンドインしそうな雰囲気を感じる。
僕はベンチに座りながら、複雑な思いを抱えていた。
もちろんチームとしてはダンカン選手に打って欲しいが、杉澤投手には頑張って欲しい。
ダンカンはストライクゾーンに来た球は積極的に振っていくタイプのバッターなので、杉澤投手としては、そのギリギリを攻めていく。
失投は簡単にスタンドへ持っていかれるので、一球たりとも気を許せない。
さてモブキャラ、もとい原谷捕手はどうリードするだろうか。
初球。
真ん中低めへのスライダー。
ダンカン選手のバットはピクリも動かない。
ボールワン。
2球目。
意表をつくカーブ。
外角ギリギリに決まった。
ダンカン選手は手が出なかった。
これでワンボール、ワンストライク。
3球目。
目線を変える高めへのストレート。
ダンカン選手のバットは止まった。
これでツーボール、ワンストライク。
本当はこの球を振らせて、ファールを打たせたかったのだろう。
もしダンカン選手を歩かせたら、次は満塁に強い下山選手。
ランナーを三塁には進めたくないだろう。
そして4球目。
これまた外角へのストレート。
ダンカン選手は見送って、判定はボール。
これでスリーボール、ワンストライク。
ダンカン選手にとってはバッティングカウント。
恐らく次のボールがストライクゾーンに来たら、強振するだろう。
5球目。
ど真ん中へのストレート、いやツーシームだ。
ダンカン選手はやはり強振した。
またしてもセンターに良い角度で上がっている。
今度こそ、行ったか。
センターの小田島選手はフェンスに張り付き、ジャンプした。
ボールはグラブに吸い込まれていたが、一塁ランナー、二塁ランナーはそれぞれホームインした。
ダンカン選手は二塁に行っている。
審判はアウトのジェスチャーをしている。
どうだろう。
小田島選手は直接捕球したか、一度フェンスに当たった球を捕球したか。
札幌ホワイトベアーズベンチは当然リクエストをした。
アウトならチェンジだし、もしフェンスに当たっていたら、2点が入る。
この試合の行方を左右しかねない、重大な局面だ。
審判団がバックスペースに引き上げ、バックスクリーンのオーロラビジョンには繰り返しさっきのプレーの映像が流れている。
静岡オーシャンズファンの反応を見ると、手を叩いている人が多い。
どうだ?
審判はなかなか出てこなかった。
原谷捕手がマウンドで、杉澤投手と何かを話している。
なかなか審判が出てこない。
かなり微妙な判定のようだ。
5分くらいしただろうか(少なくとも僕にはそれくらいの長さを感じた)、審判団が出てきた。
果たして、判定は?
次回に続く…。
…というのも、無責任なので、このプレーまでは書きます。
球場中が固唾を飲んで、審判を見つめている。
審判はアウトのジェスチャーをした。
静岡オーシャンズファンが大勢を占める、駿河オーシャンスタジアムが大きく湧いた。
杉澤投手は宙を仰いで、大きく息を吐き、マウンドを降りた。
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