第279話 ポスティング申請

 いよいよ京阪ジャガーズが、山崎の希望を聞き入れ、ポスティング申請した。

 今季は17勝2敗と昨年の15勝6敗から大きく数字を伸ばした。そして防御率は何と1.43を記録した。

 もはや山崎は日本では無双状態である。


 京阪ジャガーズにとって、山崎の流出は戦力的には痛いだろうが、彼の希望を踏まえて、英断を下した。

 もっとも球団としても、もし来季も山崎と契約したら、年俸の大幅アップは間違いないので、その浮いた分とポスティングによる譲渡金で、山崎の穴埋めの補強する腹積もりだろう。


 ポスティング申請すると、山崎は獲得を希望する球団と交渉することができ、京阪ジャガーズにはその総額に応じて譲渡金が支払われる。


 まだ25歳であり、日本では無双の活躍をしたピッチャーに、大リーグはどんな評価を下すのか。

 オラ、ワクワクすんぞ、という心持ちで報道を見守っていた。

 もちろん山崎に直接連絡して、状況を聞くことも可能だが、きっと嫌味を言うだろうから、止めておいた。

(山崎自身は、嫌味を言っているとは思っていないようだ。

 もしかすると、受け取る側がひがんで、そう聞こえているのかもしれない…。

 あまり認めたくはないが…)


 大リーグの球団との交渉は、山崎が契約した代理人が行う。

 そしてポスティング申請から、約3週間後、ニューヨークファィアバーズと契約期間7年、出来高等を含めた、総額1億ドルで契約を結んだ事が発表された。


 1億ドルと言うことは、日本円にして幾らだろう。

 為替レートにもよるが、100億円を大きく超えるらしい。

 笑うしかない。

 想像もつかない金額だ。

 えーと、僕の年俸が3,750万円になったから、仮に100億円を3,750万円で割ると…、やめた。

 こんな事を考えても意味がない。


 その日、山崎は記者会見を行った。

 そこにいた山崎はようやく夢が叶うという喜びに満ち溢れていた。

 終始笑顔で、記者からの質問に答えていた。


 毎年のシーズンオフ、全国の地方新聞の片隅に、児童養護施設に匿名で寄付があったという記事が出る。

 その金額は一箇所あたりはそれほど多くないが、それがまとまると結構な金額になるはずだ。

 僕はその送り主が誰かを知っている。

 きっと来年以降は更に金額が増えるだろう。

 そしてその送り主は、自分の名前を決して明かさないし、名前が出ることを嫌がるだろう。そいつはそんな奴だ。


 山崎のポスティングのニュースと入れ替わるように、もう1つ驚くべきニュースが入った。

 今シーズン、ようやく大リーグに昇格した五香選手が日本の球団と契約し、日本球界に戻ってくるらしい。

 そのチームは…、札幌ホワイトベアーズ。

 ホンマかいな。


 今季5位に終わった、札幌ホワイトベアーズは、巻き返しに向け、補強に積極的な姿勢を見せている。

 既に新しい外国人を2人獲得したし、ドラフトでも9人を指名した。

 

 五香選手は岡山ハイパーズを戦力外になってから、アメリカの独立リーグに挑戦した。

 そしてそこでの活躍を認められて、マイナーリーグに入り、そこでも投打の二刀流を貫き、大リーグに昇格するくらいまでにレベルアップした。

 

 これは並大抵の精神力ではない。

 そんな彼には、戦力としてはもちろん、精神的にもチームに良い影響を与えることを期待しているのだろう。

 そして投打の二刀流という話題性は、興行的にも良い影響をもたらすに違いない。


 僕にとって、谷口に加え、五香選手まで入ったことはありがたい。

 ポジションも異なるし、もし同年代3人がスターティングラインナップに入るようになれば、最高だ。

 五香選手は足も速いし、外野も守れるそうだ。

 例えば僕と五香選手で1、2番を組んでチャンスメークし、谷口が返す。

 早くも僕はそんな事を夢想した。

 


 


 


 


 


 

 


 

 

 


 



 


 


 

 

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