第201話 ヒーローインタビューⅤ
僕はヒーローインタビューに備えて、ベンチで待機した。
6回を無失点に抑えた、児島投手の方がヒーローインタビューにふさわしい気もするが、僕に譲ってくれたようだ。
やがてヒーローインタビューの準備ができ、呼ばれた。
僕は颯爽とベンチを出て、ヒーローインタビューの場所に駆け足で向かった。
「放送席、放送席。
今日のヒーローは、初回に出会い頭の先制ホームランを放った、泉州ブラックスの高橋隆介選手です」
相手は地元テレビ局の女性アナウンサーだ。
少し派手目の綺麗な人だ。
良い匂いの香水が鼻をくすぐり、心臓がドキドキしている。
パチパチパチ
アウェーとあって、空席が目立つが、それでも黒系のユニフォームを着た、多くの泉州ブラックスファンが残ってくれている。
「見事なラッキーパンチでしたね」
ん?、それはあまりいい意味ではないのでは。
「はい、無心で振ったら、ホームランになって良かったです」
「打った瞬間はまさかスタンドに入るとは思いませんでしたが、ご自身はどう思いましたか?」
少し引っかかるか物言いだ。
「はい、自分でもまさかホームランになるとは思いませんでした」
「まぐれとは言え、四国アイランズの大エースの長岡投手からホームランを打てたのは自信になったのではないですか?」
きっとこのアナウンサーは、四国アイランズの大ファンだろう。
そうに違いない。
「はい、長岡投手は素晴らしいピッチャーなので、打ててよかったです」
「長いシーズンのたかが1勝ではありますが、開幕戦の勝利は格別なものがあるんじゃないですか?」
「はい。まー、そうですね」
誰かこのアナウンサーを止めてくれませんか?
「ご自身の今シーズンの抱負を教えて頂けますか」
「はい、抱負は豊富にあります」
シーン。
やばい、滑った。
ちなみに山口県には防府市があります。
また北海道には豊富(とよとみ)という温泉で有名な町があります。
「それでは球場に残ってくれている数少ない泉州ブラックスファンに一言をお願いします」
「はい。えーと、プロに入って初めて、開幕戦のスタメンに選ばれて、とても気合が入っていたようです。
その中で第一打席から結果出せてとても嬉しいみたいです。
今日から長いシーズンが始まりましたが、これからも良い成績を残せるように頑張っていくそうなので、これからも応援をよろしくお願いしますとのことです」
「えーと、それは一言ではなくて、他人事(ひとごと)ですね。
面白い回答をありがとうございます」
僕の渾身のボケをうまく拾い上げてくれた。
なかなかやるじゃん。
球場内から少し笑いが漏れた。
「個人的には四国アイランズファンなので、今日の敗戦は悔しいですが、明日からも良い試合を期待しています」
やっぱりそうだったか。
そうでしょうね。
「今日のヒーローは、決勝の先頭打者ホームランを放った、高橋隆介選手でした」
僕は帽子を取って、声援に答えた。
なかなかユニークなアナウンサーがいたものだ。
後で聞いたところによると、熱狂的な四国アイランズファンの名物アナウンサーらしい。
やっぱりね。
思い出せば、プロで最初にヒーローインタビューを受けたのも、四国アイランズ戦で高松ドームであった。
あの時は珍ヒーローインタビューということで、一部で話題になったそうだ。
そう考えると、ヒーローインタビューも5回目。
受け答えにも慣れ、発言もまともになったのではないだろうか。
三田村情報では今回も一部で珍ヒーローインタビューというスレッドが立ったみたいだが、今回は僕のせいではないだろう。
さあ、明日も試合がある。
スタメンで出られるだろうか。
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