第246話 トンネルを抜けた先には?

 「野に咲く花のように」という歌がある。

 小学校の音楽の授業で習った。

 苦しい時、辛い時、僕はこの歌を自然と口ずさむ。

 歌詞の「時には辛い人生も、トンネル抜ければ夏の海」という部分が特に好きである。

 

 さて先程のヒットでスランプを抜けられたか?

 列車に乗っていると、トンネルを抜けたと思ったら、次にもっと長いトンネルに入るということもあるが…。

 トンネルを抜けた先は夏の海か土砂降りか。

 きっと次の打席でわかるだろう。


 3回表の攻撃は3点で終わり、その裏の守備に向かった。

 心なしか足取りが軽い。

 どんな打球も捌けそうな気がする。


 するとツーアウト二塁のピンチの場面で、鋭い打球が三遊間に飛んできた。

 僕は最短距離で打球に追いつき、難しいバウンドであったが、うまく合わせてグラブに納めた。

 そして軽快に一塁に送った。

 間一髪アウト。

 乗ってきた。

 ジョーンズ投手も嬉しそうにグラブを叩いている。

 

 そしてベンチに戻るとジョーンズ投手が待ち構えていて、ハイタッチした。

 次に打席が回ってきたら、打てそうな気がする。


 4回表の攻撃は、6番の水谷選手からであったが、三者凡退に終わった。

 そしてその裏の守備も、ジョーンズ投手が三者凡退で退け、試合は早くも5回表を迎えた。


 この回の先頭バッターは、9番の山形選手。

 フルカウントからフォアボールを選んだ。

 この辺の選球眼はさすがだ。


 そしてノーアウト一塁の場面。

 点差は3点なので、ここは確実に1点を取りに行きたいところだ。

 僕はバッターボックスでバットを横にして構えた。

 東京チャリオッツのマウンドは引き続き北条投手。


 初球。

 内角低めへのシンカー。

 バットを引いた。

 ボールワン。

  

 2球目。

 外角へ逃げるスライダー。

 これもバントするには難しい球だ。

 だが僕は咄嗟にバットを引き、右方向に打ち返した。

 打球はうまく一二塁間を抜けた。

 山形選手は二塁ベースを蹴って、三塁ベースに向かった。

 これでノーアウト一、三塁。

 2打席連続のヒットだ。

 スコアボードの僕の打率を見ると、.272となっていた。


 次の伊勢原選手の初球。

 僕はスタートを切った。

 一条捕手の送球を北条投手はカットした。

 三塁ランナーの山形選手がホームに突っ込むのを警戒したのだろう。

 もちろん二塁は悠々セーフ。

 これでノーアウト二、三塁の大チャンスだ。


 伊勢原選手はボテボテのセカンドゴロを打ち、三塁の山形選手は俊足なので、ホームに突っ込んだ。

 二塁の高井戸選手は早々にホームは諦めて、一塁に送球した。

 これで4対0。

 伊勢原選手は無安打で2打点だ。

 僕は三塁に進んだ。


 続く岸選手はきっちりと犠牲フライを打ち上げ、僕は悠々ホームイン。

 これで5対0。


 北条投手はこの回でマウンドを降り、結局この試合は5対3で勝利した。

 東京チャリオッツの3点は全てソロホームランによるものであり、それに対して泉州ブラックスの5得点はタイムリーヒットもホームランも無しで挙げたものだった。


 僕は7回に回ってきた打席はフォアボールであり、この試合3打数2安打で終えた。

 ヒーローインタビューは、6回をソロホームラン1本に抑えたジョーンズ投手。

 いつぞやの四国アイランズ戦のようにカオスのようなヒーローインタビュー(204話)にならなければ良いが…。

 そう思いながら、ロッカールームのモニターで、ヒーローインタビューを聞いていたら、「タカハシ」という単語が聞こえた。

 またしても岸選手が吹き出している。

 

「ジョーンズは何と言ったのですか?」

「高橋のところにだけは打たせないように気をつけました。

 高橋のエラーは折り込み済みでしたが、エラー1つで済んたのが勝因です」

 ヒドイ…。


 木村通訳は、「高橋選手はこれまで不調でしたが、今日は良く守ってくれた」と訳していた。

 改めて通訳は大変な仕事だ…。


 さあスランプも抜けたし、明日からは古巣の静岡オーシャンズ戦だ。

 アウェーだが慣れ親しんだ球場でひと暴れしたいものだ。

 


 


 


 

 


 

  



 


 

 

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