第565話 いるだけで嫌なヤツ

 後半戦開始の初戦、熊本ファイアーズとの一戦目は雨で中止になり、仕切り直しとなった。


 昨日のパフォーマンスについては、ファンやチームメートからは好評だったものの、麻生バッティングコーチからはこんこんとお説教を受けた。

 要約すると、「ケガでもしたらどうするんだ、パフォーマンスをするにしても、もう少し考えろ。このバカちんが」、という内容であった。


 さあ切り替えて、今日から後半戦再開。

 チームの優勝、そして個人的にはタイトル獲得に向け、良いスタートを切りたいところだ。


 今日も1番ショートでのスタメンを仰せつかった。

 だが熊本ファイアーズの先発の伊東投手の前に、チーム全体で3安打完封を喰らい、僕は4タコだった。


 良い当たりが野手の正面をつく不運もあった。

 まあそんな日もあるさ。

 僕はこの日は帰りにホテル近くのコンビニでたこ焼きを買って食べた。


 次の試合も3打数ノーヒット、1フォアボール。

 チームも5対1で敗れ、5位のチームに痛い連敗を喫し、首位争いから一歩後退した。


 僕自身、結果は出ていないが、決して調子は悪くないと思っている。

 こんな時は焦らないことが重要だ。

 焦ってバッティングフォームを変える等、下手にジタバタすると返って深みにハマる。

 それはこれまでの経験で身に沁みている。


 次は1日置いて、ホームでの仙台ブルーリーブス2連戦だ。

 最下位のチーム相手に連勝し、優勝争いに喰らいついていきたい。


 と…思っていたら、この試合は何と5打数ノーヒット。

 チームも7対3で敗れ、これで後半戦再開してから3連敗だ。


 やはり1番打者が不調だとチームも乗れないのだろう。

 そう考えると、責任を感じる。

 僕は次の試合の練習前に、麻生バッティングコーチを捕まえて、アドバイスを依頼した。

 

「不調の原因?

 そりゃ日頃の行いが悪いからだろう。

 いいか、生活態度がなっていないから、そんな風にすぐスランプに陥るんだ。

 大体な…」

 出た、全く意味のないアドバイス。

「あ、すみません。電話だ」

 僕はまだ何か言いたそうな麻生コーチを背に、携帯電話で話すフリをして、そそくさと逃げ出した。

 

 「おう、どうした。

 しょぼくれた鬱陶しい、知性の欠片もない、アホ面して」

 ロッカールーム裏の通路を歩いていると、矢作コーチとすれ違いざまに声をかけられた。

「あ、矢作コーチ。

 アドバイスして欲しいんですけど…」

「ほう、何だ。何でも聞いてくれ」

 

 僕は最近スランプに陥っていること、良い当たりしても守備の正面をついてしまうこと、麻生バッティングコーチが的確なアドバイスをくれないこと、などを目に涙を溜めながら(?)、説明した。

 

「なる程な。

 俺からは一つだけ、的確なアドバイスをしてやる。

 これはお前に取って、大変役に立つだろう」

「本当ですか、ありがとうございます」

 僕は目を輝かせて、耳を傾けた。


 「俺からのアドバイスはな…」

 矢作コーチは意味ありげに小声で言った。

 何をもったいぶってるんだ。

 早く言えっちゅうねん。

 こっちは試合前で忙しいんだ。

 と、心の中で悪態をついた。

 

「俺からのアドバイスな、バッティングの事はピッチングコーチに聞くな、ということだ」

 チッ、ダメ元で聞いてやったのに。

 やっぱりムダだったか…。

 

「まあ、お前は今のままで自分を信じてやればいいんじゃねぇの。

 ピッチャー目線では、いくら調子が悪くても、頭が悪くても、お前は球数を投げさせるし、内野ゴロでも下手すると内野安打になるし、塁に出たらチョロチョロとうざいし、忘れた頃に長打を打つし、相当嫌なバッターだぞ」

 矢作コーチはそう言って、僕の肩をポンと叩き、去っていった。


 僕は頭を下げてそれを見送った。

 そうか。

 僕は試合に出ているだけで、相手ピッチャーにとってプレッシャーになるのか。

 

 そう考えると、眼の前の結果に一喜一憂しなくても良いのかもしれない。

 ちょっと気が楽になった。

 よし、今日も普段通り頑張ろうっと。 

 

 

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