第455話 ヒーローインタビュー15

 球場内が暗くなり、ベンチからお立ち台まで光の道ができた。

 ヒーローインタビューの準備ができたようだ。

 

「放送席、放送席。

 それでは、本日のヒーローをお呼びします。

 まずは9回裏、同点タイムリーヒットを放った、高橋隆介選手です」


 大きな声援の中、グラウンドに飛び出した。

 やっぱりホームでのヒーローインタビューはお客さんが多くて気持ちが良い。

 今日は結衣と翔斗が来ている。

 さっきロッカールームから電話したが、繋がらなかった。

 お立ち台に向かいながら、その姿を探したが、見当たらなかった。

 

「続いて、9回裏、サヨナラタイムリーヒットを放った下山選手です」

 同じく大声援の中、下山選手がベンチから飛び出してきた。

 今日のスポンサーは、地元のガス会社であり、マスコットキャラクターを真ん中に挟んで記念写真を撮った。

 ちなみにスポンサー賞は商品券だった。

 商品はガス1年分とかだと思っていた(そんなわけ無いだろ。作者より)ので、嬉しい誤算だ。



「まずは同点タイムリーの高橋選手にお伺いします。

 あの場面、どんな事を考えていましたか?」

「はい、ノーアウトでランナー二、三塁だったので、是非打たせて欲しい、と思っていました」

 

「敬遠して下山選手と勝負という可能性もあったかと思いますが、その辺はどうでしたか?」

「はい、初球がストライクだったので、勝負してくると思いました。

 そして2球目はあえて空振りして、ツーストライクと追い込まれることで、僕と勝負しやすい状況にしました」

「ということは2球目の空振りは計算通りだったということでしょうか」

「はい、その通りです」

「嘘ですよね」

「はい、嘘です。すみません」

 球場内を笑いが包んだ。

 

「でもツーストライクと追い込まれて、ボール球を2球挟んでの5球目。

 あの速球を良く打ち返しましたね」

「はい、僕に対してはずっと速球勝負だったので、ストレートに的を絞っていました」

「ヒットとわかった時のお気持ちは?」

「四番として最低限の役割を果たせた、と安堵しましたし、自分自身の成長を感じました」

 

「ああ、そう言えば、今日は四番でのスタメン出場でしたね。

 プロ入り初の四番でのスタメン出場。いかがでしたか?」

「はい、一度は経験してみたかったので、プレッシャーは感じましたが、楽しかったです。

 でもやはり僕は四番には向いていないと思うんですよね。

 影でチームを支えるというか、黒子的な役割が性格的に合っているというか、単純に打つだけでは無く、もう少し頭を使う打順が良いです。

 ですので明日からは一番か二番が良いです」

(後日、問題発言があったと一部のネットでプチ炎上したようだが、なぜだろうか)

 

「高橋選手でも四番というのは、意識してしまうものですか?」

「はい、あまり打順は考えないようにしていましたが、いつも以上に緊張しました」

「そうですか、見た目に依らず繊細なんですね。

 ありがとうございました。

 次にサヨナラタイムリーヒットを放った下山選手にお話を伺います」

 ん?、最後に余計な言葉があったような…。

 でも良かった。

 今日はおかしなことは言わなかったし。

 僕は自分の番が無事に終わったことに安堵した。

 しかし結衣と翔斗はどこにいるんだろう。

 

「下山選手、ナイスバッティングでした。

 9回裏、ノーアウト一、三塁。

 あの場面、どんな事を考えていましたか?」

「はい、前の高橋が同点にしてくれていたので、気楽にバッターボックスに入れました。

 さすが、我らの四番です」

 球場内を拍手が包んだ。

 客席の前の方は立っている人が多く、結衣と翔斗が見つけられない。

 

「今日は先制の犠牲フライとサヨナラタイムリーヒットで2打点。

 大活躍でしたね」

「はい、我らが四番の高橋選手がチャンスメークしてくれたおかげです。

 ピンチも作ってくれましたし、今日の試合が面白くなったのは、全て高橋のお陰です。

 良い意味でも悪い意味でも」

 

「札幌ホワイトベアーズファンとしては、手に汗を握る展開だったと思いますが、勝ち切れたのは大きいですね?」

「そうですね。

 優勝を目指すためには、こういう接戦をものにしていきたいと思います。なあ高橋」 

「え、いえ、あっ、あの、はい、そうですね」

 結衣と翔斗のいる場所を目で探していたので、急に話を振られて驚いた。


「下山選手から見て、高橋選手の四番というのはいかがでしたか」

「そうですね。

 まれに大きな当たりを打つこともあるし、粘り強いし、悪くはないかな、と思います。

 こら、高橋、キョロキョロしない」


 おかしいな、試合開始前はあの辺に座っていたはずだけど…。

「高橋選手、どなたかを探しているのですか?」

「はい、今日は妻と息子が見に来たはずなんですけど、見当たらないんですよね。

 今日は下山選手に夕ご飯をご馳走になるんで、夕ご飯はいらないと伝えたいのですが…」

「そうですか。できればそれはヒーローインタビューが終わってからにしてもらえると嬉しいんですが」

「はい、そうします」

隣で下山選手が笑いを堪えている。

何か変なことを言ったか?

 

「それでは明日からも試合が続きますが、ファンの皆様に一言ずつお願いします」

「はい、明日…は試合がありませんが、明後日からまた頑張りますので、応援よろしくお願いします」

「ダンカンが復帰するまでは、僕と高橋で穴埋めできるよう頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします」

 勝手に人の名前を出さないで欲しい。


 ヒーローインタビュー後、下山選手と球場内を一周し、声援に応えた後、ロッカールームに戻った。

 

「さあ、行きましょうか?」

「あん、どこへ?」

 僕は雨に濡れた子犬のような、哀しそうな顔をした。

 

「そんな雨に濡れた子犬のような哀しそうな顔をするな。

 わかっているって。なあ、谷口、五香」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 貴様ら、なぜ…。

 ということで僕と下山選手、谷口、五香選手の4人で食事に行くことになった。

 

 

 

 

 

  


 

 

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