第578話 3位攻防戦?

 先日の仙台ブルーリーブス戦で好投した、篠宮投手は今も一軍に生き残っている。

 先発が崩れた時のロングリリーフ要員として控えており、先日の8回無失点も含めて、ここまで13イニングを無失点に抑えている。


 篠宮投手は年俸600万円(推定)なので、一軍登録1日ごとに約6万円もらえる。

 今でこそ僕も多くの年俸を貰うようになったが、プロ入りしてから数年間は同じように日割りで差額をもらっていた。

 今日一日が〇万円と思うと、結構嬉しいものである。


 さて今日の川崎ライツ戦。

 スタメンは以下のとおりである。


 1 高橋(ショート)

 2 湯川(セカンド)

 3 下山(センター)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 谷口(レフト)

 6 光村(サード)

 7 佐和山(ライト)

 8 武田(キャッチャー)

 9 バーリン(ピッチャー)


 7番の佐和山選手はプロ3年目の選手で、4年前のドラフトで9位指名を受けて、大卒で入団した、今年25歳の選手だ。

 身長は185cmと高く、俊足、強肩で、パワーもある身体能力に優れたスケールの大きな選手である。


 そんな選手がなぜドラフト9位だったかというと、とにかく振り回す傾向にあり、当たれば飛ぶが、ほとんど当たらないという、ミート力に大きな課題があるからである。


 大学レベルでも打率は.200を少し越える程度だったので、プロで打撃が通用するか懐疑的、というのがスカウトの評価だった。

 札幌ホワイトベアーズは欠点には目をつぶり、長所を活かす、というのがスカウティングの伝統的な方針なので、ドラフト下位での指名に踏み切ったのだろう。


 二軍ではチームトップの11ホームランを放っている(打率.195)が、なかなか一軍には呼ばれず、今日、今シーズン初めて一軍登録された。

 この時期に一軍に昇格するということは、一言で言うと来季に向けたテストであろう。


 つまりラストチャンス。

 ここで活躍しなければ、来季は契約を結ばない…かもしれないということだ。


 プロで与えられるチャンスは多くない。

 札幌ホワイトベアーズの場合、育成契約も入れて外野手登録の選手は18人おり、内野手登録でも外野を守れる選手もいる。

(湯川選手、光村選手、道岡選手は試合で外野を守った経験がある)


 この中で外野手として一軍の試合に出られるのは3人しかいない。

 いかに狭き門かというのがわかるだろう。


「どうだ。緊張しているか?」

「あ、隆介さん。

 まあ緊張していますが、精一杯やりますよ。

 何しろ今日は野球人生をかけた1日になるかもしれませんからね」

 

「まあ、そうかもしれないけど、あまり固くなるなよ。

 人生、野球だけが全てでは無い。

 世の中にはいろいろな仕事があるさ…」

「お前、それ励ましているつもりか」

 横で聞いていた五香選手が呆れたように言った。

 

「そうだぞ。

 例えチームをクビになっても、未練がましくアメリカに渡って、そこで英会話を覚えて、通訳と敗戦処理投手の二刀流でプロの世界にしがみついている奴もいる。

 お前はまだ若いから、失敗なんか気にするな」

 谷口が口を挟んだ。

 どこかで聞いた話だ。

 そう言えばそういう選手が身近にいるような気がする。

 

「タニグチクン、僕に喧嘩売っているのかな?

 今日の試合に出られない体にしてやろうか」

 五香選手が凄んだ。

 

「まあまあモブキャラ同士で喧嘩しない。

 ロートルのお前らと違って、未来ある若者にそんなプレッシャーかけちゃダメだろう」

 険悪な雰囲気になってきたので、僕が仲裁に入った。

 

「お前の言葉が一番腹立つ」

「そうだ。バカは引っ込んでろ」

 とまあ、佐和山選手の緊張を解きほぐすために、同学年の3人で寸劇を繰り広げた。


 佐和山選手は笑みを浮かべた。

 「ありがとうございます。

 ラストチャンスと思って、精一杯プレーします」

「んだ。頑張れよ」

 五香投手が佐和山選手の肩を叩いた。


 試合が始まり、バーリン投手がマウンドに上がった。

 今シーズンのバーリン投手は立ち上がりがあまり良くない。

 今日も初回から、ツーアウトながら満塁のピンチを背負ってしまった。


 ここで迎えるのは6番の三野選手。

 まだ24歳と若いが、売出し中の勝負強いバッターだ。

 バーリン投手にとっても、来季の契約がかかった大事な試合。

 何とか抑えて欲しい。

 

 

 

 

 

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