第579話 いきなりの試練
満塁とは言え、ツーアウトであり、回も序盤なので外野の守備隊系は普通である。
この場面で1番まずいのは、外野手の頭を越されること。
打った瞬間、ランナーは全員スタートを切るので、その場合は走者は全員ホームインするだろう。
バーリン投手としては、ここは長打警戒のため、低目勝負である。
そしてワンボール、ワンストライクからの3球目。
三野選手は低目へのチェンジアップを捉えた。
打球はライト前にライナーで飛んでいる。
佐和山選手は前に突っ込んできた。
そして前向きにダイビングした。
あっ、バカ…。
ボールは佐和山選手のグラブの僅か数cmメートル先で弾み、佐和山選手の体を越えて、転々と転がっている。
下山選手がバックアップに入っているが、完全な長打コースだ。
走者は全員生還し、三野選手は三塁に進み、大きくガッツポーズしている。
バーリン投手は天を仰ぎ、何かを呟いている。
そしてライトの佐和山選手は呆然とした表情でその場に立ち尽くしている。
結果論になるが、この場面、慎重にワンバウンドで捕球するべきだった。
そうすればもしかして三塁ランナーは仕方ないとして、二塁ランナーはホームインしなかったかもしれない。
完全な判断ミスだ。
記録はスリーベースヒットだが、佐和山選手本人はそう思ってはいないだろう。
まだツーアウト三塁。
僕らはマウンドに集まった。
矢作ピッチングコーチ、通訳の山手さんもやってきた。
「オー、アンラッキー。
ペラペラペラペラ…」
バーリン投手は何かを話している。
「不運な事があったけど、これは試練です。
皆さんなら、3点くらい取り返してくれると信じています」
山手通訳が訳した。
「ペラペラペラペラ…」
まだバーリン投手は何かを話しており、ダンカン選手がそれに頷いている。
「逆転のためには、これ以上点をやるわけにはいきません。
そのためには次のバッターを0点に抑える必要があります。
低目で勝負しますので、内野陣の方々よろしくお願いします、とのことだ」
バーリン投手はダンカン選手とまだ何かを話しているが、僕らは定位置に戻った。
ショートの守備位置から、ライトの佐和山選手を見ると、きまり悪そうな顔をしている。
気持はよく分かる。
でもプロとして大事なのは切り替えである。
一生懸命やった結果に胸を張れば良い。
プロである以上、その結果は全て自己責任なのだから。
7番は森田選手。
プロ2年目の若手選手だが、ショートの守備位置をガッチリとつかんでおり、粘り強さが身上の選手である。
打率は.250そこそこであり、長打力もあまり無いが、足が速く、また打席に立てばとにかく簡単に凡退しない。
ファールで粘り、例え凡退しても
10球近く投げさせる。
かと言って簡単にストライクを取りに行くと、初球攻撃もある。
やっかいなバッターだ…と言ったそばから、初球を打ってきた。
ツーシームが甘く入ったのだ。
打球は三遊間に飛んでおり、僕は走りながらグラブを出した。
するとうまい具合にボールがグラブに飛び込んできた。
そしてそれを掴み上げると、そのままサイドスローで一塁に送球した。
送球はワンバウンドになったが、ダンカン選手が上手く捕球してくれた。
ただ捕球したのと、森田選手が一塁ベースを踏んだタイミングはほぼ同時に見えた。
だが一塁塁審はアウトを宣告し、リクエストでも覆らなかった。
えがった、えがった。
僕は小走りでベンチに戻った。
神がかり的な好プレー(自分で言うな。作者より)でチェンジになったとは言え、いきなり3点を失い、球場内は微妙な雰囲気だ。
この雰囲気を変えるには、先頭バッターの僕が出塁することである。
川崎ライツの先発は深沢投手。
スリークォーターのフォームから、シンカーやスライダーなどの多彩な変化球を投げ分けてくるピッチャーだ。
でも球速は最速でも140km/h台なので、それほど苦手でもない。
バーリン投手、佐和山選手のためにも、何とかチャンスメークしたい。
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