第599話 家族会議?

「と、いうことなんだけど、どうしたら良いと思う?」

「さあ、結局あなたがどうしたいかによるんじゃないかしら」


 山城さんの元から帰宅すると、既に22時を過ぎていた。

 翔斗は既に寝ている。

 「パパが帰ってくるまで起きている」と頑張っていたようだが、力尽きて20時過ぎには眠ってしまったみたいだ。


 僕は寝室に行き、スヤスヤと寝ている翔斗の掛け布団を直してやり、そして結衣が作ってくれた、夜食のそばを食べながら、結衣に山城さんとの会話内容を話した。


「お金の事や、子どもの事を考えると、札幌ホワイトベアーズに残留した方が良いよね」

「まあ、それはそうね」


 結衣とはもし僕が大リーグに挑戦した場合は、最初は独りで行くことで合意している。

 翔斗だけでも手がかかるのに、今度生まれて来る子供をかかえて、渡米するのは大変という判断だ。

 まずは結衣の実家で暮らし、落ち着いたら、家族をアメリカに呼び寄せる。

 

「結衣はどうなんだ?

 正直なところを聞かせてほしいな」

 結衣は台所の洗い物を終えたようで、タオルで手を拭きながらやってきて、僕の横に座った。


「そうね。

 うーん、正直なところ私自身もどっちが良いか、決めかねているの。

 子供の事や生活、お金の事を考えると、札幌ホワイトベアーズに残留した方が良いだろうけど、一方で貴方が大リーグに挑戦するところを見てみたい、気もする」

 そう言って、テーブルの上に置いてあるお土産のクッキーを一つ食べた。

 山城さんがお土産にくれたものだ。

 山城さんのくれるお土産はいつも、なかなかセンスが良い。

 顔に似合わず。


「だから貴方がしたいようにすれば良いんじゃない?」

「うーん。

 君ならそう言うと思ったよ。

 どうしょう…。

 そうだ、あみだくじで決めるか。

 決断を天に委ねよう」


 僕は紙を取り出し、縦線を3本引いた。

 そして上にABCと書き、その下には、①大リーグに挑戦する、②札幌ホワイトベアーズに残留する、③翔斗に決めさせる、と書いた。

 

「結衣、ABCのどれが良い?」

「ねぇ、バカなの?

 前々から薄々そうじゃないかと思っていたけど、今確信したわ。

 貴方はバカなのね」

 結衣が呆れたように言った。

 

「しかも何よ、③翔斗に決めさせるって。どうやって決めさせるの?」

「なーに、簡単なことさ」

 そう言いながら、僕は割り箸を取り出し、割った。

 そして片方にマジックで赤を付けた。

 

「ほら、このどっちかを翔斗に引いてもらって、端に赤がついていたら大リーグ挑戦、ついていなかったら札幌ホワイトベアーズ残留」

 結衣は大きくため息をついた。

 

「もう私は寝るわ。

 くじでも何でも良いけど、後悔だけはしないでね。

 どんな選択でも私達は貴方についていくから…」

 そう言って、結衣は寝室に行ってしまった。

 

「そうは言っても簡単には決められないよ…」

 リビングに1人残され、僕は独り言を言った。


 すると結衣が戻ってきた。

「ねえ、決めるのは札幌ホワイトベアーズから条件提示を受けてからで良いんじゃない?

 それが魅力的なら残留しても良いだろうし、そうじゃなければポスティングを申請すれば良いし…」

 まあ、確かに。

 金額の多寡で決断するわけじゃないが、自分がどれだけ球団から評価されているか、聞きたい気もする。

 

 そして翌日、練習に向かうぽるしぇ号の車内で携帯電話が鳴った。

 街道沿いのコンビニの駐車場に停め、着信履歴を見たら、球団事務所からだった。


 いよいよおいでなすったな。

 電話をかけると、受付が出たので、北野本部長に取り次いでもらった。

 要件は来週月曜日に球団事務所に来てほしいとの事。

 その際に条件提示があるようだ。


 さあどんな内容を提示されるのかな。

 ちょっとワクワクしている自分がいる。

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