第600話 第一部完?

 翌週、月曜日。

 僕は緊張して、球団事務所の入口に立った。

 今季の年俸が7,777万7,777円プラス出来高だったことを考えると、少なくとも一億円は超えるだろう。


 まさかこの僕が一億円プレーヤーになるなんて…。

 プロ入りした時は、夢にも思わなかった。

 最初の方は一年一年生き残るだけで必死だったし、妹の学費を払い終えてからは、あまりお金の事は気にしないようにしていた。


 比較的若くして結婚したし、結衣も僕もあまり物欲が無いので、年俸が上がっても生活水準はあまり変わらなかった。


 唯一欲しいのはポルシェだが、いまや国産車の愛車ぽるしぇ号に愛着があり、もうしばらくは乗り続けたいと思っている。


 球団事務所に入ると、今回は会議室に通された。

 中に入ると、北野本部長、ジャックGM(新監督)の他に、昨年の交渉時にもいた査定担当の神経質そうな眼鏡の方も同席していた。

 

 挨拶と軽く世間話をした後、本題に入った。

 まずは査定担当の方が口を開いた。

 

「えーと、まずは今シーズンの出来高のお話をしましょうか。

 作者も忘れていたようですので、497話のおさらいをします」

 そう言って、1枚の紙を渡してくれた。

 

  「まず今季の契約は、年俸77,777,777円に加えて、100試合出場で100万円、120試合でプラス100万円、140試合で更にプラス100万円。 安打数100本で100万円、それ以降は10本ごとにプラス100万円。 盗塁は20個で100万円、それ以降は10個ごとにプラス100万円。 そして300打数以上、かつ打率3割を達成で300万円という内容でしたね。

 覚えていますか?」

 

「えーと、そうでしたね。

 すっかり忘れていました」

「これで計算すると、まず試合数が137試合ですので出来高は200万円、安打数は167本ですので、700万円…」

 

「え、ヒットだけでそんなになりますか?」

「はい、100安打で100万円で、それ以降は10安打ごとに100万円なのでそういう計算になります」

 

「更に盗塁数が59個なので、出来高は400万円、そして300打数以上で打率3割を達成しましたので、300万円プラスとなります」

 良く分からないが、凄い額になりそうだ。

 

「で、合計は幾らになりますか?」

「はい、合計で1,600万円です」

「せん、ろっぴゃくまんえん…?」

「はい、そうです。

 計算上、そうなります」

 出来高だけで、1,600万円ということは、今季年俸と合わせると9,000万円以上を稼いだことになる。


「その他にオーナーのポケットマネーで、盗塁王の賞金もでるそうですよ。

 金額等は我々ではわかりませんが…」

 北野本部長が更に付け加えた。

 

 なんてこったい。

 天文学的な金額にすら思える。

 そんなに貰って本当に良いのだろうか。

 まあ翔斗、そして生まれてくる子供の事を考えると、お金は幾らあっても良いのだろう。


「ということで、来季以降の提示ですが…」

 北野本部長が口を開いた。

 

「繰り返しになりますが、高橋選手は来期以降も必要な戦力です。

 これはチームとして、最大限の提示と考えていただきたい。

 この内容はオーナーにもご説明し、了承頂いたものです」

「はい…」

 うわっ、ドキドキする。

 どんな内容だろう。

 僕は心臓が強く波打つのを感じた。


 生まれてから、こんな感覚を覚えるのは、小学校6年生の時の地区大会3回戦で3対5でビハインド、9回裏ツーアウト満塁の場面で打席に立つた時と、中学2年生の夏の地区大会決勝で一打サヨナラの場面で打席に立った時と、中学3年生…(途中略。作者より)…、の時以来である。

 つまりこれまでこんなに緊張したのは、生まれてから30回くらいしかない。

 

「我がチームの提示は以下のとおりです」

 そう言って、北野本部長は1枚の紙を僕の前に置いた。

 そこには次のように書いてあった。

『基本年俸:150,000,000円、出来高払い:50,000,000円、契約年数3年

 ※基本年俸変動制

 ※詳細は別紙』


 僕はゼロの数を数えた。

 1、2、3、4、5、6、7。

 えーと、一十百千万、十万、百万、千万、一億…。


 つまり…、年俸1億5千万円の3年契約プラス出来高払いということだ。

 つまりケガをしても毎年1億5千万円を3年間、つまり合計で最低4億5千万円保証されるということか?


「あ、ありがとうございます。

 つ、つまり3年間、最低1億5千万円、最高で2億円を貰えるということですね」

 僕は自分の声が上ずっているのを感じた。

 

「いえ、違います」

 神経質そうな眼鏡の方が言った。

「記載のとおり、基本年俸は変動性になります」

 まあ、そりゃそうか。

 黙っていても、3年間で4億5000万円貰えるなんて、そんな美味しい話があるわけない。


「詳細は別紙になります。

 山本君、高橋選手でもわかるようにわかりやすく説明してあげて」

 北野本部長は、神経質そうな眼鏡の方(以下、山本さんという。)に向かって言った。

 

「はい、それでは説明します」

 山本さんは説明を始めた。


―――――――――――――――


 今回600話を迎えました。

 ここまで続けることができたのは、読んでくださった皆様のおかげです。

 

 全く切りは良くないですが、話が長くなって、スクロールするのが面倒くさくなった事や、心機一転を図る等々の意図で、次回601話から第二部としてリスタートをすることとしました。

 

 ということで、話としてはとても中途半端ですが、ここで第一部完とします。

 引き続き第二章もよろしくお願いします。

 作者より

 

https://kakuyomu.jp/works/16818093079503185710 

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