第135話 6年目の開幕戦
1回の表の泉州ブラックスの攻撃は、結局3点を取った。
横田投手に取って、ほろ苦いデビューとなっただろう。
そして1回の裏、杉田投手はプロの先輩としての意地を見せ、三者凡退に抑えた。
そして泉州ブラックス打線は、2回の表にも3点を取り、横田投手をノックアウトした。
結局、オープン戦初戦は泉州ブラックスが9対2で勝利した。
杉田投手は5回無失点で、僕は3打席目にも内野安打を放ち、3打数2安打。
幸先の良いスタートを切った。
その後も僕はセカンドまたはショートでスタメン出場が続き、オープン戦序盤の6試合で20打数7安打の.350、三塁打1本、二塁打2本と好調であった。
自分でも特に右方向への打球が、昨年よりも延びていることを感じていた。
オープン戦も中盤になると、シーズンでレギュラーを期待されている選手の出場が多くなる。
セカンドはトーマス・ローリー選手、ショートは伊勢原選手がスタメン出場することが多くなり、僕は途中出場が多くなった。
とは言え、打席に立たせて貰う機会も昨年よりは多くなり、僕もレギュラー候補に残っているとは感じていた。
3月も中旬を過ぎると、いよいよオープン戦も残り数試合になる。
僕はオープン戦とは言え、15試合に出場して、37打数11安打、打率.297と三割近い打率を残していた。
この時点で二遊間はトーマス・ローリー選手、伊勢原選手、僕、瀬谷選手が一軍に残っていた。
このまま2年連続で開幕一軍なるか?
そして最後のオープン戦後のミーティングで、開幕一軍の選手が発表された。
さあ、僕は残れるか……。
結論から言うと、2年連続で開幕一軍に残った。
一軍最低年俸を上回る金額を貰っていることを考えると、もはや一軍にいるのは当然かもしれない。
今季の僕のミッションは、出場機会を増やすことだ。
開幕戦は、泉州ブラックスタジアムでの新潟コンドルズ戦。
相手の先発は、山下投手。
僕が指名されたドラフトで、1位で指名された右腕だ。
杉澤投手と同じく大卒であり、即戦力の期待も高かったが、なかなか殻を破れず、昨シーズン、ようやく先発ローテーションに定着し、10勝を上げた。
今季は更なる飛躍が期待され、開幕投手に選ばれたのだろう。
そして我が泉州ブラックスのスタメンは、次のとおり。
1 岸(センター)
2 伊勢原(ショート)
3 トーマス(セカンド)
4 岡村(ファースト)
5 デュラン(指名打者)
6 水谷(サード)
7 宮前(レフト)
8 高台(キャッチャー)
9 山形(ライト)
ピッチャー 児島
僕は開幕スタメンはならず、ベンチ警備および声出し要員の大役を仰せつかった。
試合は3回まで両チームともランナーをだすものの、無得点のまま早くも4回を迎えた。
そして4回の表に新潟コンドルズは、宮前選手のエラーをきっかけに先制点を挙げた。
宮前選手は本職はファーストであるが、この試合はレフトで出場していた。
そして、ワンアウトからのレフト前ヒットを弾いてしまい、二塁打にしてしまった。
新人でしかも初の守備機会でもエラー。
さぞかし落ち込んでいるだろうと思った。
4回の裏、宮前選手に打席が回った。
そしてランナー一塁からまさかの逆転ホームランをレフトに放った。
さすが大型新人。
僕は正直、度肝を抜かれた。
「隆さん、やりましたよ」
ホームインし、チームメートの祝福を受けた後、ベンチに戻ってきて僕の隣に座り、屈託のない笑顔で話しかけてきた。
「おう、やったな。
でもまだ俺の方がプロではホームランを打っているからな」
そう、僕は通算2本打っているのだ。
まだ僕の方が1本多い。
そして2対1のまま迎えた、6回の裏。
宮前選手は今度はライトにホームランを放った。
僕は複雑な思いで、ベンチで出迎えた。
僕が5年間で打ったホームラン数に1試合で並びやがって。
僕なんて、100試合以上出場して、ようやく2本なのに。
これが才能の差という奴か。
そう思わずにいられなかった。
そして7回の裏、トーマス・ローリー選手がヒットで出塁した。
ということは?
「高橋、出番だ」
やった。
開幕戦から出場だ。
正直、宮前選手の才能は羨ましいが、僕は僕の役割を果たすしかない。
僕は青いスライディンググローブを手にはめ、満員の観客が見守るグラウンドに駆けだしていった。
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