第414話 目指せ、3割バッター

 泉州ブラックスのマウンドには、エースの児島投手。

 同じチームの時はよくかわいがってもらった。

(体育会系用語のかわいがりではない。念の為)


 ストレートとスプリットを主体とし、カーブ、ツーシーム、カットボールも駆使する。

 味方の時は頼もしかったが、敵になると嫌なピッチャーだ。


 そして先頭バッターの岡谷選手は、その児島投手の前にワンボール、ツーストライクから空振りの三振に倒れた。

 三振率の高さも岡谷選手の課題である。

 せめて内野ゴロを打てれば、俊足なだけにもっと出塁率も上がるのだろうが…。


 今日の児島投手は調子良さそうだな。

 ネクストバッターズサークルから、児島投手の投球を見て、そのように思った。


 児島投手はテンポ良く投げ込むタイプなので、守っている方としてもとてもやりやすかった。

 つまりバッターとしては、その術中に嵌まらないようにしなければならない。


 初球。

 威力のある内角へのツーシーム。

 恐らく打っても内野ゴロだろう。

 見送ったが、ストライク。


 2球目。

 外角へのカーブ。

 意表をつかれたが、判定はボール。


 3球目。

 内角低目へのストレート。

 手が出なかった。

 これでワンボール、ストライクツーと追い込まれた。


 ということは次はスプリットか。

 外角へのツーシームやカットボールもありうる。


 すると何と外角へのカーブ。

 球速が遅い分、何とかファールにできた。

 危ない、危ない。

 カウントはノーボール、ツーストライクのまま。


 4球目。

 やはりスプリットだ。

 ひっかけてしまった。

 ボテボテのショートゴロだ。


 僕は懸命に一塁に走った。

 ショートの伊勢原選手が突っ込んでくる。

 そして送球し、ファーストの岡村選手の捕球と僕が一塁ベースを踏むのはほぼ同時に思えた。

 判定は?

 

「セーフ」

 泉州ブラックスベンチは当然リクエストしたが、判定は変わらず。

 わーい、内野安打だ。


 ふとバックスクリーンを見ると、打率が.313となっている。

 やったー、3割を越えた。

 打数は少ないものの、打率3割は嬉しい。

 この打率を維持していけば、レギュラー奪取も夢じゃない…はず…。


 一塁ベース上から、ベンチのサインを見た。

 サインはグリーンライト。

 自己責任で隙あらば盗塁しても良いよ、というおなじみのサインだ。


 児島投手はかなり僕の足を警戒している。

 キャッチャーの高台捕手は強肩であり、この警戒の中、盗塁を決めるのは正直、かなり難易度が高い。


 3番の道岡選手への初球。

 僕はスタートは切らなかった。

 バッテリーともに全く隙が無い。

 さすがベテランバッテリーだ。

 この間の投球はボール。


 2球目。

 やはりかなり警戒されており、投げる前に牽制球を3球立て続けにもらった。

 ここも僕はスタートを切らなかった。

 投球は内角の際どいボールだったが、ボール。

 道岡選手は選球眼が良い。

 カウントはツーボールノーストライク。

 バッティングカウントだ。


 3球目。

 ベンチのサインは、「打て」。

 ここはヒットエンドランも考えられるが、空振りした場合、二塁で刺されるリスクがかなりある。

 投球は外角へのカーブ。

 道岡選手は見逃し、判定はストライク。

 これでツーボール、ワンストライクとなった。


 そして4球目。

 僕はスタートを切った。

 道岡選手の打球は三遊間に飛んでいる。


 打球は伊勢原選手が深いところで捕球したが、二塁も一塁も投げられない。

 オールセーフ。

 ワンアウト一、二塁といきなり先制のチャンスだ。


 次は4番のダンカン。

 ここはその打棒に期待だろう…?

 ん?、今のサインは何だ?

 盗塁に見えたけどそんなはずはないよね。

 児島─高台バッテリーから、セカンドスチールですら決めるのが難しいのに、サードスチールなどむざむざアウトになるようなものだ。


 きっと見間違いに違いない。

 僕はサードコーチャーにサインの確認をした。

 だが、やはり盗塁だ。

 

 まあ、プラスに考えると、もしアウトになっても二塁にランナーは残る。

 万が一、成功したらワンアウト二、三塁の大チャンスの到来だ。

 僕はゆっくりとリードをとった。


 

 


 

 

 


 


 

 

 

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