第415話 やはり野球は難しい
児島投手はセットポジションに入ってから、暫く時間を使って、セカンドランナーの僕の方を見ている。
警戒しているのが手に取るようにわかる。
ダンカン選手への初球。
投じると同時に僕と道岡選手はスタートを切った。
サインプレーだから、全力を尽くしてアウトになったら仕方が無い。
そう開き直ったら、良いスタートが切れた。
後は三塁ベースをひたすら目指すだけだ。
高台捕手からサードに送球するのが、視界に入った。
タイミングはどうだ。
微妙か。
三塁ベースに触れるのと、スパイクにタッチされたのは同時に思えた。
一拍空いて、三塁塁審がアウトを宣告した。
すると、すかさず札幌ホワイトベアーズベンチからリクエストの要求があった。
まだ初回ではあるが、これがアウトになるのとセーフになるのでは天と地ほど違う。
審判団がホームベース後ろのバックスペースへ下がっていった。
オーロラビジョンにさっきのプレー映像が流れている。
うーん、微妙だ。
でも僕の足の方が少し早いようにも見える。
実際、球場の多くを占める札幌ホワイトベアーズファンも拍手している。
これはワンチャンあるのでは?
なかなか審判が出てこない。
「遅いな。お前はどっちだと思う?」
泉州ブラックスのサード、水谷選手が聞いてきた。
「うーん、アウトと言われればアウトですし、セーフのような気もしますし…」
「よし、賭けるか。
もしセーフならお前が俺に奢れ。アウトなら俺が奢られてやる」
「はい、わかりました」
ようやく審判団が出てきた。
「セーフ」
判定が覆り、場内から大きな拍手が上がった。
これでワンアウト二、三塁。
先制の大チャンスだ。
そしてダンカン選手はきっちりとライトに犠牲フライを放った。
やや浅めではあるが、そこは我らがスピードスター。
余裕を持ってホームインした。
今日は試合終了後、岸選手と高台捕手にご馳走になり、水谷選手にはご馳走しないといけない。
そして今日は5番に入っている谷口にタイムリーヒットが生まれ、この回2点を先制した。
谷口も少し殻を破った感がある。
口に出すと、お前には言われたくないと言われそうだが…。
次のロイトン選手は凡退したが、エースの児島投手から2点を先制したのは大きい。
2回表、庄司投手はこの回先頭の岡村選手にホームランを打たれ、点差は2対1と1点差に迫られた。
サイドスローはコントロールをつけやすいが、一方でオーバースローに比べると球威は劣るので、少し甘く入るとスタンドまで持っていかれてしまうのだ。
この回はショートの攻守もあって、庄司投手は後続は抑え、1点リードのまま、2回裏となった。
札幌ホワイトベアーズの攻撃は、7番の駒内選手から。
肩が強く、一発長打もあるが、足はどちらかというと鈍足で、三振が多い愛すべき選手である。
ちなみに7番の駒内選手から9番の庄司投手まで打率1割台の数字が並んでいる。
児島投手にとってこの回は楽だろう。
…野球というのは不思議なものだ。
良い当たりが野手の正面をつくことがあるし、止めたバットに当たったボテボテのゴロで、鈍足の選手が内野安打を打つこともある。
駒内選手はツーストライクと追い込まれてから、外角のツーシームに手が出てしまい、あえなくボテボテのサードゴロ。
ところがあまりにボテボテだったため、打球は途中で止まり、さすがの水谷選手と言えども一塁に送球はできなかった。
結果は内野安打。
駒内選手は一塁ベース上で派手なガッツポーズをしている。
そんなに喜ばなくても…。
次のバッターは打率.109の武田捕手。
9回打席に立っても、ヒット1本でるかどうかの数字だ。
もともと武田捕手はライバルの上杉捕手と違って、打撃は不得意だが、今季はそれに輪をかけて打てていない。
ベンチのサインは当然送りバント…?
いや、今のサインはヒットエンドランに見えたが…。
鈍足のランナーと非力なバッターの場面ではあまりお目にかかれない作戦だ。
武田捕手は右打席に入り、サインを確認し、初球からバントの構えをした。
泉州ブラックスの守備陣も当然、バントシフトを敷いている。
初球。
真ん中高目へのストレート。
フライを上げさせようという意図だろう。
しかし武田捕手はその球を強引に引っ張った。
打球は前進守備を敷いていたサードの水谷選手の横を抜け、レフトのファールゾーンに達した。
一塁ランナーの駒内選手は三塁に、バッターランナーの武田捕手は二塁にそれぞれ到達した。
してやったりだ。
これだがら野球は難しい。
武田捕手だってプロ。
バットを触れば当たって、ヒットゾーンに転がることもあるのだ。
次は9番の庄司投手の打順。
そして次の次は僕の打順だ。
チャンスで打席が回ってくるか?
乞うご期待。
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