第413話 記念球の恩人

 初戦、相手先発がアンダースロー右腕の大和投手ということもあり、僕は控えに回った。

 僕はデーター上、左投手相手の方が打率が良いし、アンダースローの投手とは対戦数が少ないので、苦手とも得意とも言えない。

 この試合は結局出場はなかった。


 そして2試合目、泉州ブラックスの先発は、エースの右腕、児島投手であり、右対右になるが、僕はショートでのスタメンを告げられた。

 恐らく同じチームだったので、児島投手の球筋を知っている事を期待されてのスタメンだろう。


 僕は今シーズン、ここまでチーム38試合中、33試合に出場し、47打数14安打、打率.298、ホームラン1本、打点6、盗塁9(盗塁死2)の数字を残している。


 ポジション争いのライバルの湯川選手は打率.283、ロイトン選手は.275、光村選手は.237となっており、最近になって僕のスタメンの機会も増えてきた。


 打席数は少ないものの、打率は3割近くを打っており、このまま好調を維持したいところだ。


 さて今日のスタメンは次の通り。


 1 岡谷(センター)

 2 高橋(ショート)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 谷口(レフト)

 6 ロイトン(セカンド)

 7 駒内(ライト)

 8 武田(キャッチャー)

 9 庄司(ピッチャー)


 1番に入った岡谷選手の名前を聞いて、ピンと来た方はとても記憶力が良い方だろう。

 岡谷選手は僕がプロ入り初ヒットを打った時、その記念ボールをくれた選手だ。(第57話)


 僕のプロ入り初ヒットは、最初はエラーと判定され、後日、記録がヒットに変わった事で生まれたものだ。

 もし最初からヒットと判定されていたら、記念ボールを貰えただろうが、エラーと判定されたので普通ならボールをピッチャーに返してしまうところだ。


 ところが岡谷選手はそのボールを取っていてくれた。

 なぜならば彼のプライドにかけて、その打球はエラーではなくヒットだと考えていてくれたのだ。

 そして試合終了後、僕にそのボールをくれたため、僕はプロ入り初ヒットの記念球を手にすることができたという具合だ。


 つまり岡谷選手は僕の初ヒット記念球の恩人(?)である。

 そして今シーズンの開幕前に縁あって、金銭トレードで東京チャリオッツから札幌ホワイトベアーズに移籍してきたのだ。


 岡谷選手は俊足強肩で、パンチ力もあるが、確実性に難があり、巨大戦力を抱える東京チャリオッツでは準レギュラーという立ち位置だった。

 だから外野手が不足している札幌ホワイトベアーズが、開幕直前に白羽の矢を立てたのだろう。


 記念ボールの一件以来、岡谷選手とは個人的にも親しくさせて頂いており、チームメートになったのはとても嬉しい。


 今日の先発は僕とドンパの庄司投手。

(ドンパとは北海道弁で、同じ年という意味です。以上、高橋隆介の北海道弁講座でした)

 サイドスローから、ストレート、シンカー、スライダーを操る技巧派の右腕だ。


 試合が始まり、泉州ブラックスの不動の1番、岸選手が打席に入った。

 普段はおちゃらけているが、試合になるとその集中力は凄いものがある。


 初球。

 庄司投手のシンカーを捉えた打球はセンターに上がった。

 いきなりセンターオーバーの長打かと思った瞬間、岡谷選手が背走しながら難なくキャッチした。


 さすが名手。

 庄司投手も両手を上げて、感謝の意を表している。

 岡谷選手は今年34歳となり、ベテランであるが、俊足、強肩は健在であり、札幌ホワイトベアーズにとって貴重な戦力になるだろう。

 この回、庄司投手は後続を抑え、無失点で切り抜けた。


 1回裏は、1番の岡谷選手からの打順である。

 岡谷選手は東京チャリオッツ時代、フォーツールプレイヤーと言われていた。

 「走力」、「守備力」、「送球力」、「長打力」に優れているが、「ミート力」に課題があるという意味である。


 東京チャリオッツ時代は、最高で16本のホームランを打ち、ゴールデングラブ賞も一度取ったが、その時の打率も.220だった。

 ちなみに僕がいつかゴールデングラブ賞を取りたいと思ったきっかけは、岡谷選手の自宅に招待された時、金色のグラブをかたどったトロフィーの実物を見たからである。

 

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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