第526話 交流戦スタート

 試合後、4回表の下條選手の打球は、ツーベースヒットに記録が訂正され、僕の2つ目のエラーも取り消された。

 

 それはそうだろう。

 リーグ屈指の名手の僕だから、グラブに当てることができたが、普通なら完全なヒットだった。

 

「ということで、本来は決勝ホームランを打った俺が奢ってもらうべきところだけど、今日はプロの先輩として鈴鳴のシーズン初勝利を祝って、ご馳走してやる。

 君たち、感謝したまえ」

「何を偉そうに。

 初回にエラーしたのは変わらないだろう」

  

「うるさいな、谷口。

 ていうか何でお前らも来ているんだよ」

 試合後、鈴鳴投手の希望で高級寿司屋に来ていた。

 この店は24時まで営業しているので、試合後でも使いやすい。

 後輩の鈴鳴投手と湯川選手にご馳走するのはまあ良いとして、なぜか谷口と五香選手も同席していた。

 

「そりゃ、シーズン中に大事な戦力となっている後輩達に深酒させるわけにはいかないからな。

 言わばお目付け役だ」と谷口。

「何がお目付け役だ。

 お前らは自分の分は自分で払えよ」

「まあまあ、今日のスポンサーからヒーロー賞ももらっただろ。

 細かいことは気にするな」と五香選手。


 「まさかお前らもご相伴に預かれる、とでも思っているんじゃあるまいな」

「まあまあ、めでたいことはみんなで共有した方が良いだろう」

「そうですよ。

 食事はみんなで食べた方が美味しいですよ」と言ったのは湯川選手。

 ていうか、僕は君とは何の約束もしていないかったよね?

 そう思ったが、まあいいか。

 今日はエラーをホームランで取り返した良い日だ。

 寛大な心で皆にご馳走してやろう。


 無事に女優の〇〇さんのサインを渡すことができ、僕としても肩の荷が降りた。

 もしこのまま、鈴鳴投手が勝てないままだったら、今シーズン終了後、処分しようと思っていた。

 折り曲げるわけにもいかないので、意外とロッカールームの場所を取るし、汚してはいけないので気を使うのだ。

 

 京阪ジャガーズとの三連戦は、2勝1敗と勝ち越した。

 その後も札幌ホワイトベアーズは大連勝することもないが、大連敗も無く、好調を維持したまま、早くも季節は初夏となり、交流戦の時期を迎えた。


 ここまでチームは42試合を消化し、24勝15敗3引分、勝率.615。

 2位の京阪ジャガーズに対しては、2.5ゲーム差をつけていた。


 そして僕はというと、41試合に出場し、157打数50安打、打率.318、ホームラン4本、打点15、盗塁17(盗塁死4)という、とても素晴らしい成績を残していた。


 リーグの打率ランキングでも3位につけており、打率首位の岡山ハイパーズの水沢選手とは.017差。

 結構差は大きいが、まだシーズンは1/3にも達していない。

 逆転のチャンスは充分にある。

 

 一方で盗塁数は4位であるが、こちらは首位の京阪ジャガーズの中道選手とはわずか2個差である。


 どちらもこれからの頑張り次第ではタイトルを狙えるかもしれない。

 ジャックGMからポスティング申請には、タイトル獲得が条件と言われており、今季は数字にも拘っている。

 僕が好結果を残せば、きっとチームの勝利にも貢献できると思う。


 さて交流戦。

 最初のカードは、静岡オーシャンズだった。

 交流戦はホームとアウェーがほぼ隔年でやってくるので、今年はアウェーである。


 もし大リーグに挑戦することになれば、静岡オーシャンスタジアムでの試合はこの三連戦が最後となるかもしれない。

 そう考えるととても感慨深いものがある。


「よお、バカ橋。

 お前は相変わらずバカだな。

 何かやってくれる、という期待をいつも上回ってくる」

 球場に到着すると、早速原谷さんがやってきた。 

 今シーズンも原谷さんは貴重な二、三番手捕手として、一軍に帯同している。

 

「どうもお久しぶりです。

 ていうか、そんなにバカバカ言われるような事をしましたっけ?」

「バカ。

 ポスティングのことだよ。

 普通、根回しも無しにヒーローインタビューであんな事言わねぇよ」

「そんなもんですかね。

 夢は大きい方がいいじゃないですか」

「バカ。だとしても普通はあんな場で言わないぜ。

 で、結局どうすんだ?」


 僕がジャックGM達と話したことは、チーム内の一部しか知らない秘密となっている。

 よってタイトルを取ったら、ポスティングを認めてもらえることも基本的に皆知らない。


 とは言え、相手は原谷さんだ。

 見た目はアレだけど、一応信頼をおける人なので、僕はジャックGMとの約束を話した。

 

「そうか、タイトルか…。

 普通なら数字を狙うと、肩に力が入って逆に成績が落ちるもんだけどな。

 やっぱりお前はバカだけあって、本当にタイトルを取るかもな。

 バカは凄いな。

 プレッシャーを感じなくて」

 

 さて僕は今回の話の中で原谷さんから何回バカと言われたでしょう。

 読み直さないで当てた方には、抽選で10名様に、僕のサイン色紙を差し上げますので、球団サイトから応募して下さい。


 字数も多くなってきたので、次回に続きます。

 

 

 

  

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