第331話 二刀流初披露?
「まだ初回だ。
バッターが深町だからといって臆することは無い。
腕を振って、お前の自信がある球をストライクゾーン目掛けて投げ込め」
武田捕手がそう声をかけた。
「そうだ。ここは1点や2点、気にするな。
思い切って投げろ」と道岡選手。
稲本投手は強く頷いた。
輪が解け、僕らはそれぞれの守備位置に戻った。
さあ、ショートに打ってこい。
僕の華麗なプレーでダブルプレーを取ってやるぜ。
心の中でそう考えながら、中腰になった。
そして初球。
打球は快音を残して、レフトスタンドに突き刺さった。
打った瞬間、ホームランとわかる当たりだ。
あらららら。
1点や2点は仕方ないけど、4点はやり過ぎだと思う。
初回とは言え、4点のビハインドはちょっと大きい。
この回は更にヒットを1本打たれたものの、何とか4失点で終わった。
いきなり大きなハンデを背負ってしまった。
1回裏、僕は打席に立った。
点差もあるので、出塁するのが役割である。
ワンボール、ワンストライクからの3球目の外角へのスクリューボールを僕はライト方向に打ち返した。
打球はセカンドの頭を越えて、ライト前に落ちた。
さあ反撃返しだ。
次のバッター谷口。
接戦であればバントの場面だが、4点差あることもあり、谷口はヒッティングの構えをしている。
頼むぞ。
右打ちで僕をセカンドへ進めてくれよ。
そう願ったが、初球を打ち、平凡なセカンドゴロ。
僕も懸命に走ったが、あっさりとセカンドフォースアウト。
貴様…。
道岡選手がヒットで出塁するも、次のダンカン選手が三振し、この回は無得点で終わった。
そして2回表も稲本投手がマウンドに上がった。
ベンチとしては、立ち直ってくれることを期待したのだろうが、ヒット2本でノーアウト一、三塁のピンチを背負った。
札幌ホワイトベアーズのベンチはさすがに稲本投手を諦めた。
稲本投手は項垂れながら、ベンチ裏に下がっていった。
ちょっと今日は悪すぎた。
続いてマウンドに上がったのは、五香投手。
ある程度のイニングを投げることを期待しての登板だろう。
そして五香投手はその期待に応え、三者連続三振でこの大ピンチを乗り切った。
そして2回裏。
札幌ホワイトベアーズは松島投手を攻め立て、5番の下山選手がツーベースヒットで出塁し、6番のロイトン選手もフォアボールを選んだ。
ノーアウト一、二塁のチャンスである。
7番の西野選手はファーストゴロに倒れたが、ランナーは二塁と三塁にそれぞれ進塁した。
そして8番の武田捕手は三振し、ツーアウト二、三塁のチャンスで9番ピッチャーの打順を迎えた。
通常、ここでピッチャーの打順なら、この回の得点は諦めるところだが、ここは二刀流の五香投手である。
期待したいところだ。
松島投手はスクリューボールの使い手であるが、五香選手は右打ちであり、左対右。
初球。
外角へのスクリューボール。
五香選手は見送ったが、ストライク。
この辺りのコントロールはさすがだ。
そして2球目。
カットボールが甘く真ん中付近に入った。
好球必打。
五香選手の打球は良い角度でレフトに上がった。
そしてフェンスに直撃し、二人のランナーがホームインした。
これで4対2。
試合は俄然、わからなくなった。
更にツーアウトランナー二塁で、僕の打順を迎えた。
ここでヒットを打てば更に1点を追加し、1点差に迫ることになる。
ここで続く谷口がホームランを打とうものなら、逆転だ。
そしてそのまま五香投手が後続を抑えたら、僕と谷口、五香投手の3人揃ってのヒーローインタビューだ。
打席に入る前、そんな事を妄想した。
初球。
カーブ。
見送ったがストライクゾーンギリギリに決まった。
すごい変化量だ。
2球目。
外角へのスクリューボール。
さっきヒットを打った球と同じようなコースだ。
僕はまたしても右方向に打ち返した。
打球はライト線に飛んでいる。
どうだ、フェアかファールか。
「ファール」
ああ、残念。
これでノーボール、ツーストライク。
追い込まれた。
僕は一度打席を外し、素振りをした。
3球目。
またもやカーブだ。
今度は外れているだろう。
見送った。
「ストラーイク」
マジか。
どうみても低いと思うが…。
僕は首を傾げながら、ベンチに戻った。
審判に抗議したい気持ちはあるが、そんな事をしても始まらないだろう。
僕は小走りでベンチに戻った。
次、次。
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