第550話 僕の役割

 今日のスタメンは、次のとおり。


 1 高橋(ショート)

 2 岡谷(ライト)

 3 下山(センター)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 谷口(レフト)

 6 ブランドン(サード)

 7 浅利(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 青村(ピッチャー)


 湯川選手と道岡選手はまだ復帰していない。

 恐らく2人ともオールスター前後の復帰になると噂されている。

 先発ピッチャーがエースの青村投手のため、今日は守備力を重視して、岡谷選手と浅利選手を起用したのだろう。


 岡谷選手は俊足強肩で、ツボにハマった時の長打力にも定評があるが、一方で三振が多い選手である。


 そして浅利選手は守備力だけなら、球界屈指と言われている。

 最近は打力に勝る湯川選手がスタメン出場が多かったが、ここぞという場面では守備固めで起用される事が多い。


 初回。

 青村投手は気合の入った投球を披露し、京阪ジャガーズの上位打線を三者凡退に抑えた。

 いくら中道選手でも塁に出なければ盗塁はできない。


 その裏、僕は最初のバッターボックスに立った。

 京阪ジャガーズの先発はエースの車谷投手。

 両エースの投げ合いとなる今日の試合は、投手戦が予想されている。

 したがって、当たり前だが先に点を取ったほうが有利になる。


 麻生コーチからはとにかく粘って、球数を投げさせろと仰せつかっている。


 初球。

 外角へのスライダー。

 僕はこの球を狙っていた。


 思い切り振り抜いた。

 打球は右方向に上がっている。

 抜ければ長打コースだが、どうだ。


 ライトの向田選手が向こう向きに追っている。

 まだ追っている。

 そしてこっちを向いた。


 だが打球はそのままスタンドに飛び込んだ。

 え?

 嘘でしょ。


 スライダーを狙っていたとは言え、我ながら予想していなかった右方向へのホームラン。

 早くも今シーズン7号のホームラン。

 

 我ながら長打力もついてきたのを感じる。

 俊足堅守で巧打者。

 我ながら良い選手に育ってきたものだ。

 そう考えながら、大歓声を受けながら、ホームインした。


 ベンチではチームメートがにこやかに出迎えてくれた。

 先発の青村投手ともハイタッチした。


 ところがその中で、唯一憮然とした表情をしている人がいた。

 言わずと知れた麻生バッティングコーチだ。


「高橋くん、ちょっとおいで」

 麻生コーチに手招きされた。

 顔つきは特に怒っても笑ってもいない。

「はい、何でしょう」

 珍しく褒めてくれるのかな?


「さて問題です。

 僕はこの打席の前に、君に何て言ったでしょうか?

 1、とにかくホームランを打て

 2、とにかく塁に出ろ

 3、打てる球が来たら積極的に打て」

「えーと、3ですか」

 

「ほう、君の記憶容量はフロッピーディスク並だね。

 答えは4、できるだけ粘って球数を投げさせろ、だ」

「何だ、引っ掛けですか…」

 

「このウマシカ野郎。

 誰が初球をホームラン打てと言った」

 ホームランを打つて怒られるなんて、珍しいのではないだろうか。

 

「サーセン」

 僕は素直に頭を下げた。

「まあ、とは言え、良く打った。

 結果だけを見れば、褒めてやろう」

 何だ。

 どうせ褒めてくれるなら、最初からそう言えば良いのに。

 全くツンデレなんだから…。


「おい、まだ話は終わっていない」

 一礼をして、ベンチの隅の定位置に戻ろうとすると、また声をかけられた。

 一体、何だっていうんだろう。

 

「今の打席は結果オーライだが、調子に乗るなよ。

 お前の役割はとにかく粘って球数を投げさせて、しっかり塁にでて、チャンスメークすることだ。

 それを忘れるなよ」

「ヘイ、わかりした」

 まだ何か言いたそうにしている麻生コーチを背に、僕は席に戻った。


 ホームランを打って、こんなに説教をされるなんて球界広しといえど、僕くらいのものではないだろうか。


 そうこうしているうちに、1回裏の攻撃が終わった。

 僕に出会い頭のホームランを食らった後、車谷投手は立ち直り、三者三振に抑えられた。


 さあ次は守備ですね。

 僕は球場内の札幌ホワイトベアーズファンからの拍手を受けて、守備についた。

 

 

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