第517話 まさかの展開
初回、ノーアウト一、三塁。
先制点の大チャンス。
当然相手バッテリーは三振を狙ってくるだろう。
もし谷口から三振を取れば次のバッターはダンカン選手。
一発の危険もあるが、ダブルプレーを取れる可能性もあり、そうすればこの回無失点の目も出てくる。
谷口は当然それがわかっており、この打席は軽打に徹するだろう。
初球。
真ん中高めへのストレートを、谷口は思い切りフルスイングした。
てめぇ。
湯川選手はスタートを切る真似をしたが、一塁に戻った。
2球目。
外角低めへのチェンジアップ。
素晴らしいコースに決まり、谷口のバットは空を切った。
おいおい。
これでノーボール、ツーストライクだぞ。どうすんだ。
3球目。
投球前に谷口はタイムを取った。
一度バッターボックスを外して、素振りをしている。
僕はその間にベンチのサインを確認した。
仕切り直しての3球目。
内角高めへのストレート。
谷口のバットは空を切った。
しかし一塁ランナー湯川選手はスタートを切っている。
岡山ハイパーズの吉成捕手は投げられず、悠々盗塁成功。
盗塁を助ける空振り。
これもチームバッティングだ。
ちなみに湯川選手へのサインは、「走りたければ走れば?」だった。
ワンアウト二、三塁となり、バッターはダンカン選手。
ダブルプレーの心配は無く、内野ゴロ、外野フライでも1点は入るので気楽にバッターボックスに入っているだろう。
そしてこういう時のダンカン選手は怖い。
ツーボール、ワンストライクからの4球目を捉えた打球が、良い角度でセンターに上がったのを見て、改めてそう思った。
見事な先制スリーランホームラン。僕はホームインし、ダイヤモンドを一周して戻ってきたダンカン選手を待って、ハイタッチをした。
そして5番の下山選手がツーベースヒットで出塁し、6番の不調の道岡選手にもタイムリーヒットが生まれた。
7番の岡谷選手もフォアボールでつなぎ、とどめは8番上杉捕手のスリーランホームラン。
この回、一挙7点。
マウンドの井本投手は呆然としている。
岡山ハイパーズベンチは、井本投手を諦め、新外国人のメルセデス投手に交替した。
井本投手は昨シーズン、エース級の活躍をしており、今季も開幕からローテーションに入っている。
それがいきなり初回に7失点は大きな誤算だろう。
しかもまだワンアウト。
9番の五香投手は初球、大きな空振りをした。
明らかに狙っている。
五香投手は一応、二刀流を継続しており、バッティングにも定評がある。
確実性は低いが、長打力も無くはない。
帯に短し、たすきに長しという、微妙な立ち位置を確立している。
結局、五香投手は3球全てフルスイングし、颯爽とベンチに戻っていった。
まあいいんじゃないの。
下手にランナーに出て、投球に影響が出ても困るし、と僕は思った。
そして次は僕の打順である。
ツーアウトランナーなし。
でも今の僕は一打席たりとも無駄にするわけにはいかない。
首位打者をもし争った場合、ヒットどころか凡打一つの差で明暗を分けることもある。
僕は今シーズン、本気で首位打者または盗塁王を取りに行く。
一度口にしたからには結果で責任を取りたいと思う。
もしかしたら、これまで以上にワンプレーが僕の将来の野球人生を左右するかもしれないのだ。
僕はこの回2回目のバッターボックスに入った。
マウンドのメルセデス投手は身長約190cmの長身から、150km/h台のストレートを投げ下ろしてくる。
変化球はツーシームとスプリットが主体で、たまにチェンジアップを投げる。
昨シーズンは大半をマイナーリーグで過ごし、大リーグ通算4勝。
つまりこのクラスのピッチャーを打てないなら、大リーグに挑戦するのはおこがましいと言われてしまうだろう。
ということで、スリーボール、ワンストライクからカウントを取りに来たツーシームをうまく右方向に打ち返した。
打球はファーストの頭を越えて、フェアゾーンに落ちた。
僕は一塁を蹴って、悠々二塁に到達した。
今年の僕は一味違う。
我ながら周囲にそう思わせるバッティングだったと思う。
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