第516話 今シーズンの札幌ホワイトベアーズ打線について

 初回、最初のバッターボックスに入った。

 岡山ハイパーズの先発は左腕の井本投手。

 威力のあるストレートに加え、ツーシーム、チェンジアップ、カーブなど球速差がある球を投げ込んでくる、厄介なピッチャーだ。


 初球。

 真ん中低めへのストレート。

 低く見えたが、判定はストライク。

 急速表示は155km/h。

 左腕でこの速さは凄い。

 

 2球目。

 外角へのツーシーム。

 これも遠く見えたので見送ったが、ストライク。

 うーん、追い込まれた。


 僕はタイムを取り、一度バッターボックスを外した。

 ここまで速いボールで来たので、チェンジアップやカーブも考えられる。


 しかしながら相手バッテリーの頭には、僕が京阪ジャガーズ戦でカーブを今季初ホームランとしたように、速球よりも半速球や遅い球が得意なことが入っているだろう。 


 つまり次も速い球が来る。

 僕はそう読んだ。

 そして3球目。

 内角高めへのストレート。

 やや、仰け反って避けた。

 これでカウントはワンボール、ツーストライク。


 4球目。

 速い球か遅い球か。

 どちらかに的を絞らないと、どっちつかずになる。

 僕は狙い球を絞った。


 投球は外角低めへのストレート。

 僕は見送った。

 素晴らしい高さ、そしてコースだったが、球審の手は上がらない。

 これでツーボール、ツーストライク。

 平行カウントに持ち込んだ。


 そして5球目。

 内角高めへのストレート。

 どこまでもスピードボールでの勝負だった。

 僕はコンパクトに振り抜いた。

 打球は三塁線を襲っている。


 サードの本田選手は半身の体勢で身体を低くして、グラブを出したが、打球はグラブに当たって、大きく弾んだ。


 僕は一塁に到達し、二塁を伺ったが、ボールはカバーに入っていたライトの高輪選手が捕球した。

 記録はサード強襲内野安打。

 今日も切り込み隊長としての役割を果たせた。


 メジャーに挑戦するのであれば、ストレート(メジャーではフォーシームというのかな)、ツーシームなど速い球への対応が必要である。

 そういう点ではこの打席、意味があったと言える。


 初回、ノーアウト一塁。

 今シーズンの札幌ホワイトベアーズは1回の得点が多い。

 それは僕と湯川選手の1、2番コンビの出塁率が高いことと無縁ではないだろう。


 開幕から3番を張っていた道岡選手はなかなか調子が上がらなかったが、それでも悪ければ悪いなりに進塁打を打ってくれたし、4番のダンカン選手、5番の下山選手、6番の谷口も開幕から好調を維持している。

 なお、今日は道岡選手の打順を下げ、谷口を3番に入れている。

 

 ここは札幌ホワイトベアーズとしてはランナーを進めたいところだ。

 湯川選手は最初からバントの構えをしている。

 

 しかしながら岡山ハイパーズバッテリーはそれを額面通りには受け取らないだろう。

 実際、かなり僕の動きを気にしている。

 リーリーリー。

 僕はゆっくりとリードを取った。


 牽制球が立て続けに2球来た。

 いずれもサッと一塁に戻る。

 そしてまた同じくらいリードをする。

 ここは我慢比べだ。

 そして僕は集中力を切らさないように気をつける。

 

 何度も言うが、牽制死だけはしてはいけない。

 僕はプロ2年目、出場2試合目で牽制死をして、チームのシーズン最終試合を終わらせたことがある。(第28話)

 僕はその時の悔しさを今でも忘れない。


 そして井本投手の初球。

 スタートを切った。

 湯川選手はバントの構えから、盗塁を助ける空振りをしてくれた。


 トップスピードに乗り、二塁ベースに滑り込んだ。

 良い送球が来たが、タッチよりも僕の足が二塁に触れるほうが早かった。

 もちろん判定はセーフ。

 リクエストもなし。

 今シーズン9個目の盗塁を決めた。

 カウントはノーボール、ワンストライク。


 これでノーアウト二塁。

 相手守備陣は、進塁打を警戒し、やや右寄りに守っている。

 

 2球目。

 ヒットティングの構えから、湯川選手はバントをした。

 ボールは三塁線付近に転がっている。良いバントだ。


 僕は余裕で三塁に到達し、湯川選手も一塁セーフ。

 これでノーアウト一、三塁で、迎えるバッターは3番の谷口。

 岡山ハイパーズの内野陣は早くもマウンドに集まっている。

 

 谷口は昨シーズンはバントのできる中距離砲として名を挙げたが、この場面ではさすがにスクイズは無い。

 仮に内野ゴロでダブルプレーとなっても、一点は入るし、ヒットを打てば大量得点のチャンスだ。 


 ランナーが僕と湯川選手なので、ディレイドスチールだってあり得る。

 岡山ハイパーズバッテリーにとってはタフな場面だろう。 

 

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