第518話 コージとマオーシ?

 次の湯川選手が凡退し、更なる追加点はならなかったが、僕は軽やかな足取りでベンチに戻った。


 まだ初回なのに、2打数2安打。

 プロ入り初の1イニング2安打。

 だがコージ、マオーシ。

 こういう絶好調の時こそ、怪我したり、守備でポカしたりするものだ。

 買った兜の緒を締めよ。

 気を引き締めていこう。

 僕は颯爽と一回裏の守備位置に向った。

(だから、覚えたての言葉を無理に使わないで下さい。作者より)


 さて一回裏、いきなり7点の援護をもらった五香投手。

 ピッチャーには大量援護点をもらうと、気楽に投げて良い結果を出すタイプと、気が緩んで打たれるタイプがいる。

 さあ、五香投手はどちらか。


 そう思って見ていると、何と岡山ハイパーズの1番からの上位打線を三者三振に抑えた。

 どうやら五香投手は弱っている相手をとことん叩く、サドスティックな性格のようだ。


 そして試合は完全なワンサイドゲームとなり、13対0で岡山ハイパーズに勝利した。

 五香投手はノビノビと投げ、7回を3安打無失点で勝ち投手になった。

 僕は6打数3安打。

 良い当たりが野手の正面をつく不運もあったが、猛打賞を獲得した。


 とは言っても、チーム全体で20安打を放ったので、僕の活躍はあまり目立たなかった。

 でも僕が初回に内野安打で出塁したからこそ、大量得点に繋がったのだ。

 首脳陣の方々には、それを是非忘れないで頂きたい。


 岡山ハイパーズとの三連戦は、その後の2試合も札幌ホワイトベアーズが勝利した。

 僕はこの三連戦、14打数6安打と大暴れし、打率を更に上げた。

 打率は何と.330となり、リーグの打率ランキング3位に付けている。

 自分で言うのも何だが、いよいよ覚醒したか?

 

 盗塁も早くも二桁の10個(リーグ2位タイ)とし、失敗は一つだけ。

 チームも首位に立っており、何もかもうまく行きすぎて、怖いくらいだ。

 

 そして続く仙台ブルーリーブスとの三連戦にも勝ち越し、またもや京阪ジャガーズとの首位攻防三連戦を迎えた。

 今度はホームでの対戦である。


 2位京阪ジャガーズとの差はジワジワと開いており、2.0ゲーム差を付けている。

 もしここで三連勝なんてしまった日には、5.0ゲーム差になる。


 初戦を任されたのは、鈴鳴投手。

 大卒2年目の投手で、昨シーズン、谷口の逆転満塁ホームランのおかげで、プロ初勝利を挙げた。

 身長170cmで体重90kgのずんぐりむっくりした体格から、重い球質のストレートを投げ込む。


 女優の〇〇さんの大ファンであり、いろいろないきさつから僕が彼女のサインを預かっている。

 その辺の事情を説明すると長くなるし、面倒くさいので、知りたい方は第456話〜第463話を読んで欲しい。

 

「鈴鳴、調子はどうだ?」

「はい、絶好調です」

「今日こそ、サインを渡せるように頑張れよ。

 ずっとロッカールームに入っていて、邪魔なんだよ。

 そうだ、もし今日負け投手になったら、アマ〇ンに出すからな」

 

「でもそのサインには、「鈴成投手、プロ初勝利おめでとうございます」って、書いてあるんですよね?

 アマ〇ンに出したら、すぐに足がつくんじゃないですか?」

「良いんだよ。レアだから、きっと高く売れる」

 

「もし高橋さんのエラーで負けたら、サインはどうなるんですか?」

「その時は神社に持ち込んで、厄除けとして燃やしてしまうさ。

 ていうか、お前、この俺がエラーするとでも思っているのか?」

 

「いえいえ、滅相もありません。

 でも上手の手から水が漏れる、っていう言葉もあるじゃないですか。

 いくら日本球界を代表する、生きる伝説の名ショートストップの高橋さんでも、イレギュラーバウンドしてエラーをすることは可能性としてはあり得るじゃないですか。

 もちろん万が一そんな事があったら、サインどころか、高級寿司や焼肉を10回くらいご馳走してくれるでしょうから、確率的には極めてゼロに近いということはわかっています」

「ま、まぁな」


 いつの間にか、鈴鳴選手と大変な約束をしてしまった事に、後から気付いた。

 今日は絶対エラーできない。

 グラブ君、今日もよろしくね。

 僕はロッカールームで、グラブに対してタオルで磨きながら語りかけた。 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る