第469話 完全アウェーの中で
10月に入り、シーズンも最終盤となった。
札幌ホワイトベアーズは京阪ジャガーズ1.5ゲーム差の2位で、最後のアウェーでの2連戦を迎えていた。
どちらかの試合に負けるか引き分けると、京阪ジャガーズの優勝が決まり、札幌ホワイトベアーズが優勝するにはこの2試合に連勝するしかない。
シーリーグの優勝がかかる天王山の初戦、その大事なマウンドを託されたのは、エース、青村投手だった。
ここまで13勝6敗、防御率2.75と素晴らしい数字を残している。
その大事な試合、僕はスタメン出場となった。
ここまでチーム141試合中、118試合に出場し、296打数88安打、打率.297、ホームラン5本、打点34、盗塁25(盗塁死9)。
今季は途中出場が多く、昨シーズンに比べて打数は大きく減らした(519打数→296打数)が、打率は大きく上げている。(.276→.297)
打率は一時、.280台前半まで落ちたが、そこから盛り返した。
ずるずると数字を落とさなかったのは、成長の証だと思う。
もし今日の試合で4打数2安打で打率はちょうど.300となる。
規定打席には遠く及ばないが、シーズン通しての打率.300は何とか達成したい。
そしてこの試合、チームは見事に3対1で勝利したが、僕は4打数1安打に終わり、打率は.296と少し下げてしまった。
もしシーズン打率3割を達成するためには、明日の最終戦で3打数2安打か4打数3安打を打つ必要がある。
うーん、ちょっと厳しいか。
泣いても笑っても、この最終戦で勝ったほうが優勝となる。
京阪ジャガーズの予告先発はエースの車谷投手。
この最終戦にエースピッチャーをぶつけてきた。
対する我が札幌ホワイトベアーズの予告先発は、バーリン投手。
新外国ながら、ここまで9勝7敗、防御率3.83とローテーションの一角を担ってきた。
1年目から日本球界にアジャストできたのも、その研究熱心な性格によるものだろう。
今日勝てば二桁の10勝となる。
当然気合が入っているだろう。
この大事な試合のスタメンは次の通り。
1 高橋(ショート)
2 谷口(レフト)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 湯川(セカンド)
7 西野(ライト)
8 武田(キャッチャー)
9 バーリン(ピッチャー)
優勝がかかる緊張感の中、プレーできること。
これは野球人として何物にも代えがたい幸運だろう。
個人成績の打率.300台もかかるが、それ以上にチームに貢献したいと強く感じている。
今日の試合はTVで全国中継されるらしい。
日本中に名を売るチャンスだ。
試合前練習をしていると、お客さんが続々と入ってきた。
ほとんどが京阪ジャガーズファンである。
ただでさえ、アウェーの京阪ジャガーズ戦は独特の雰囲気に包まれのたが、今日はこれまで以上に異様な雰囲気である。
天の邪鬼な僕としては、是非球場中を悲鳴で包みたい。
フツフツと燃えてくるものを感じている。
始球式が終わり、試合が始まった。
幾らアウェーとは言え、普通、攻撃時は札幌ホワイトベアーズ応援団の声が聞こえるものである。
ところが今日は車谷投手を応援する声しか聞こえない。
初球。
真ん中低目へのストライク。
球場内から拍手が上がっている。
2球目。
外角一杯へのカーブ。
この球を狙っていた。
うまく右方向に弾き返した。
打球はファーストの下條選手の頭を越えて、ライト線付近で弾んでいる。
塁審はフェアのジェスチャーをしている。
僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。
球場中から「あー」という悲鳴に似た声が上がっている。
余裕で二塁に到達した。
これで打率は.299となった。
あとヒットを1本打てば、打率3割に到達だ。
2番は谷口。
最初からバントの構えをしている。
まずは先取点が欲しい。
そうすれば相手に焦りが生まれるだろう。
そして谷口はきっちりと送りバントを決めた。
これで今シーズンの犠打数は30個に到達した。
今シーズンの谷口は、ここまでダンカン選手の26本に継ぐチーム2位の17本のホームランを打っており、これは道岡選手の16本を上回っている。
打率も.261と昨年の.243から大きく伸ばしており、そんなバッターが2番に座り、バントを30個も決めたのだ。
チームが終盤まで首位争いをできている立役者の一人であることは間違いないだろう。
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