第507話 好守の応酬
札幌ホワイトベアーズのマウンドには、バーリン投手。
昨シーズンは惜しくも9勝と二桁勝利には届かなかったが、シーズンを通じてローテーションを守りきったことを評価されて、今シーズンの契約延長を掴み取った。
話し好きの所を除けば、気の良いナイスガイである。
そのバーリン投手であったが、ヒット2本とフォアボールでいきなりノーアウト満塁のピンチを背負ってしまった。
僕らはマウンドに集まった。
ベンチからは通訳もやってきた。
「うーん、ピンチだね」
バーリン投手はまるで人ごとのように、おどけてみせた。
こうしてリラックスした姿は、野手陣にとっても肩の力が抜け、良い結果を伴うことが多い。
「でもアメリカでもこういうピンチは何度も経験しているし、ピンチの後にチャンス有りという言葉もあるから、ここを抑えれば次の回、チャンスが巡ってくるよ」
通訳が訳した。
その後も両手を広げて何か話しているが、僕らは聞き流した。
「ということで、しっかり守るぞ」
「おうっ」
武田捕手の掛け声に応え、僕らは守備位置に戻った。
バーリン投手はまだ話したりなそうな顔をしている。
この回、0点に抑えたら幾らでも話を聞いてやるよ、僕はそう思った。
1回裏、ノーアウト満塁で迎えるバッターは、4番の下條選手。
初球。
カットボールを捉えた打球が三遊間にライナーで飛んで来た。
京阪ジャガーズのショートに名手、木崎選手がいるなら、札幌ホワイトベアーズにも高橋隆介がいる。
横っ飛びして、地面すれすれでグラブで掴み取ると、すかさず二塁に送球した。
ランナー戻れずツーアウト。
そして一塁に転送されたが、さすがにこれはセーフ。
バーリン投手はグラブを叩いて喜んでいる。
ノーアウト満塁が一気にツーアウト一、三塁となった。
だがまだ油断はできない。
5番は元大リーガーのスピン選手。
年齢は35歳と高いが、大リーグ通算227本のホームランを放ったパワーは健在である。
バーリン投手は大リーグ通算12勝と、実績では劣るが、元大リーガー同士の対決ということでかなり気合が入っているようだ。
ツーシームで空振り三振を奪った。
「ウォー」
バーリン投手はガッツポーズし、マウンドを降りながら吠えた。
昨シーズン終盤までペナントを争った両チーム。
どちらも一歩も引かない。
初回は両チームとも相手投手の立ち上がりを攻め、チャンスを作ったがいずれもショートの好守備に阻まれて、無得点に終わった。
その後は両投手とも立ち直り、両軍無得点のまま、5回を終えた。
ちなみに僕の第2打席目は、3回表に回ってきたが、ショートゴロに倒れた。
6回表は僕からの打順だ。
グラウンド整備とジャガーズガールのパフォーマンスの間、僕はベンチ裏で集中力を高めていた。
均衡を破るためには、何としても塁に出たい。
何しろ番場投手は威力のあるストレートに加え、ツーシーム、カットボール、スライダー、スプリット、チェンジアップを投げ分けてくるので球筋を絞りづらい。
しかも右対右だ。
昨シーズンの最終試合といい、今日の第一打席といい、良く打ったものだ。
我ながら凄い。
我ながら偉い。
相性は悪くないし、相手の方が僕に対して苦手意識があるだろう。
そこをうまくついていきたいところだ。
試合が再開され、僕はバッターボックスに入った。
相手の守備位置は中間守備。
特に前でも後ろでもない。
しかしながらサードの天野選手の動きを見ていると、セーフティバントに警戒している様子もある。
初球。
外角低めへのスプリット。
ストライクゾーンの隅に決まって、ストライクワン。
高さ、コース、速さ。
どれをとっても素晴らしい球だ。
ツーストライクからこの球を投げられたら、とても打てないだろう。
2球目。
内角高めへのストレート。
これは見送ってボール。
初球と全く逆のコースだ。
ボールになったとは言え、素晴らしいボールだ。
3球目。
またしても外角へのスプリット。
これはファールでカットした。
見送ってもストライクだし、打っても内野ゴロだ。
タイミングを合わせるためにバットを出した。
これでカウントはワンボール、ツーストライク。
追いこまれた。
そして運命の4球目!!
内角を予想していたところへ、裏を書いて外角へのスライダー。
僕はとっさにバットを出した。
さあ結果は?
次回に続く
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