第548話 ジミーズ決起集会
ジミー2号こと谷口はいつも通り、淡々とした表情をしている。
最終回、ツーアウト満塁の場面であるが、あまり気負わないのは谷口の良いところかもしれない。
昨シーズンは2番打者としての起用が多く、バントの出来る中距離砲として名を上げたが、今シーズンは中軸を打つことが増えている。
初球。
グリーン投手の真ん中高めのストレートを強振したが、ファール。
何とバットが根本から折れた。
球速表示は161km/h。
エグい球だ。
グリーン投手もギアが最大に上がり、渾身の力を込めて投げている。
2球目。
内角へのツーシーム。
見逃したが、ストライク。
これも158km/h。
微妙に変化したが、球速はストレートとあまり変わりがない。
3球目。
外角へのストレート。
谷口は見送った。
グリーン投手はマウンドを降りかけ、キャッチャーはミットを動かさず固まったままだが、判定はボール。
ジミー谷口は一度バッターボックスを外した。
そう言えばこいつのフルネームは、谷口浩司だったな。確か。
こーちゃんだと、光村選手と被る。
タニちゃんでは語呂が悪い。
じゃあ、グッちゃんではどうだろうか。
カキーン。
そんな下らないことを考えていると、快音が聞こえた。
ベンチの誰もが身を乗り出している。
まじかよ。
何と打球は大きな弧を描いて、レフトスタンドの最前段に飛び込んだ。
まさかまさかのグランドスラム。
いつもは鉄面皮の谷口もダイヤモンドを一周しながら、さすがに顔がほころんでいる。
ジミー2号が久々に大きな仕事をした。
これで5対1。
そして12回裏は、大道寺投手が無失点で締めて、見事勝利を掴んだ。
やっぱり今日は同い年祭りだったな。
そんなことを考えながら、ロッカールームに戻ると、庄司投手に声をかけられた。
「よう残念だったな」
「あ、何が?」
「同い年の5人の中でお前だけ活躍できなくて」
「いやいや俺、活躍しただろう」
「そうか?、俺は9回1失点、光村は先制タイムリー、五香は延長12回に先頭打者として貴重なヒット、そして谷口は言うまでもない。
で、お前は?」
「えーと、ファインプレーと送りバント成功…」
僕は小声で答えた。
「ファインプレー?
そんなのあったか?」
庄司投手は五香選手に向かって聞いた。
「うーん、記憶にないな」
「光村は記憶にあるか?」
「さあ、覚えていないな」
「と言うことで、お前こそジミー高橋だな」
そう言って、五香選手が僕の肩を叩いた。
「そうか、お前らはジミーズか。
そいつはピッタリだ」
僕らの話を聞いていたのか、西野選手が口を挟んできた。
「でも地味と言う意味では、西野選手も負けていないんじゃないですか?
最近は出番が無かったし」
「そうですよ。
西野さんこそ、ジミーズに入れますよ」
僕の言葉に光村選手が同調した。
「し、失敬な。
お前らと一緒にするな。
お前ら全員、ぶっ◯すぞ」
口調は厳しいが、顔はなんとなく嬉しそうだ。
「じゃあ今日から僕らはジミーズですね。
よし明日は移動日ですし、今晩はジミーズの決起集会を行いますか」
ということで、僕ら同い年5人と西野選手でホテル近くの深夜営業しているファミレスで食事した。
ファミレスの店員はプロ野球選手が6人も来たことに驚いていた。
西野選手は「何で俺がお前らと…」と愚痴っていたが、何となく嬉しそうで、最後は全部支払いをしてくれた。
6月も中旬となり、僕は球場に向かいながら、ドキドキしていた。
今日はいよいよオールスターファン投票の最終結果が発表される。
ここまで何回かあった中間発表では、ショート部門でずっと1位に立っており、最後の中間発表でも2位とは結構差があったので、ほぼ間違いないと思うが、発表されるまではどうなるかわからない。
オールスターのファン投票で選ばれることは、僕の夢の一つである。
さあどうなるかな。
ドキドキ、ワクワク。
高鳴る気持ちを抑えながら、愛車のポルシェで、僕は球場に向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます