第547話 ジミーの意地?

 プロ野球には、学生時代は投手で、プロに入ってから野手に転向した選手が多い。

 その中で五香選手は今だに二刀流を継続している、ある意味、稀有な存在である。


 五香選手はプロ4年目のシーズン終了後、戦力外になり、アメリカの大リーグでの不活躍を経て、札幌ホワイトベアーズに入団した変わり種だ。

 普通なら投手か野手のどちらかに絞るものだが、彼の場合はどちらも中途半端に一定の水準を越えているので、成り行きでどちらも継続している。


 開幕時点は2軍だったが、先日、代打や敗戦処理要員として、一軍に昇格した。


 初球。

 内角へのストレート。

 五香選手は仰け反って避けた。

 判定はボール。

 グリーン投手は不敵な笑みを浮かべている。

 

 2球目

 外角へのツーシーム。

 五香選手は手が出なかった。

 さっきの内角球を見せられると、外角の球に踏み込むのは躊躇してしまうのだろう。

 これでワンボール、ワンストライク。


 3球目。

 外角へのカットボール。

 ボール球に見えたが、手が出てしまった。

 これでワンボール、ツーストライク。

 追い込まれた。


 五香選手は一度バッターボックスを外して、素振りをしている。

 

「タケちゃん、頑張れ」

 僕はネクストバッターズサークルから声をかけた。

 五香選手のフルネームは、確か五香武士だったと思う。

 僕の記憶が正しければ…。

 五香選手は僕の方をチラッと見たが、すぐに視線を外した。

 

 そして勝負再開。

 4球目。

 またしても内角へのツーシーム。

 これで身体をのけぞらさせて、内角球の残像を植え付け、次は外角球で打ち取る算段だろう。


 だが五香選手は腐っていても投手。

 相手の考えることは読んでいる。

 わずかに身体を引くと、腕を畳んでその球をコンパクトに弾き返した。


 打球はレフト線上に飛んでいる。

 深町選手が懸命に横っ飛びしたが、打球はそのグラブの先をすり抜けていった。


 三塁塁審はフェアのジェスチャーをしており、五香選手は鈍足(?)を飛ばして、二塁にむかった。

 見事なツーベース。

 ジミーなりの意地を見せた。

 これでノーアウト二塁。

 勝ち越しの場面となった。


 やっぱり主人公のところには良い場面で回ってくるようだ。

 同年代祭りの最後を飾るのは、やはり僕だったか…。

 僕はバットを握りしめ、バッターボックスに向かった。


 そしてサインを確認すると…、送りバント。

 そりゃそうか。

 ここは1点が欲しい場面。

 ワンアウト三塁にしておきたいところだ。


 僕のヒーローインタビューを期待している読者の方々には申し訳ないが、僕はサイン通り、送りバントを決めた。


 ほんの少しセーフティ気味にしたのは、僕なりの細やかな抵抗である。

 正直言うと打たせて欲しかった…。

 

 「良くやった、りゅーちゃん」

 ベンチに戻ると、庄司投手がそう言って、僕の頭を叩いた。

 おい、今のは痛かったぞ。

 僕は軽く睨んだが、庄司投手は済ました顔をしている。


 これでワンアウト三塁。

 バッターは俊足の西やんこと、西野選手だ。

 相手の内野陣は極端な前進守備。

 内野ゴロを打ったら、ホームに投げるバックホーム隊形だ。


 そして西野選手は百戦錬磨。

 こういう時にどうしたら相手が嫌がるか、良く理解している。


 ボール球は振らず、ストライクはファールで逃げる。

 ノーボール、ツーストライクから粘りに粘り、フォアボールを勝ち取った。

 これでワンアウト一、三塁。

 

 仙台ブルーリーブスの内野守備はダブルプレー隊形に変わった。

 バッターが3番の下山選手なので、強い打球を警戒しているのだろう。


 初球、2球目とボールが続き、結局、下山選手は申告敬遠となった。

 下山選手は足は普通なので、満塁にした方が守りやすいという判断だろう。


 そしてバッターボックスには4番のダンカン選手が入った。

 だがノーボール、ツーストライクから三振に倒れ、ツーアウトとなってしまった。


 ここで迎えるのは、えーと5番だから…谷口か。

 そうか、こいつを忘れていた。

 こいつも同年代だった。

 こいつも初めの方から登場しているわりには、地味である。

 ジミー2号に任命してやろう。

 頑張れよ。

 ジミー2号。

 意地を見せろよ。

 僕はベンチの中で心の中でそう語りかけた。

 


 

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