第264話 絶賛スランプ中

 この回も引き続き、岡山ハイパーズのマウンドには井本投手がいる。

 3回目の対戦であり、またベンチでもずっと球筋を見てきたので、今度こそ出塁したい。

 ここまでの2打席、凡退はしたものの当たりは決して悪くは無かった。

 だが、たとえボテボテの当たりの内野安打でも、フォアボールでも、そしてデットボールでもエラーでも良いので、ここは何としても出塁するのが僕に課せられたミッションだ。


 井本投手も過去2打席、良い当たりをされていること、そして先頭バッターを出したくないということで、コースをついて慎重に投げてきた。

 そしてスリーボール、ツーストライクとフルカウントとなり、フォールで粘っての9球目。

 ストレートが外角に外れた。

 よしフォアボールだ。

 一塁に歩きだそうとしたその瞬間、一拍おいて球審がストライクのコールをした。

 えー、今のが?

 球審の顔を振り返ってみたが、澄ました顔をしている。

 僕は首を傾げながら、ベンチに戻った。


 この試合、結局、僕は5打数ノーヒットで終わり、チームも5対2で敗れた。

 残りの2打席も感触は悪くなかったが、飛んだコースがついていなかった。

 仕方ない。こういう日もある。

 守備では我ながら好プレーを連発し、喝采を浴びた。

 バッティングは水物。

 守備を確実にやっていれば、そのうち風向きも変わるだろう。

 僕は楽観していた。


 2試合目。

 この日も1番ショートでスタメン出塁したが、5打数のノーヒットに終わった。

 良い当たりもあったが、打球が正面をついてしまったり、相手の好プレーに阻まれたりで、出塁することができなかった。

 チームも敗れ、さすがに10打数ノーヒットは辛い。


 そして3試合目。

 フォアボールを1つ選んだが、それ以外の打席は凡退し、これで移籍後、14打数ノーヒット。

 そしてこの試合では敗戦につながる致命的なエラーをしてしまった。

 

 9回裏、5対2でリードしている場面で、ワンアウト満塁からの緩いショートゴロ。

 ダブルプレーを焦り、打球をグラブからこぼしてしまったのだ。

 急いで拾い上げて、二塁に投げたが、セーフ。

 そしてその次の打者にサヨナラ満塁ホームランを浴び、チームは大逆転負けを喫してしまったのだ。


 これで札幌ホワイトベアーズは三連敗し、岡山ハイパーズファンの大歓声の中、うつむき加減で球場を後にした。


 次は1日置いて、ホームでの川崎ライツ戦。

 チームの誰からも責められることはなく、むしろ道岡さん等から励ましてもらったが、この三連敗の戦犯は僕であることは明白である。


 これまではホーム球場と二軍施設がそれほど遠くなかったので、スランプの時に移動日で1日開けば、練習場で打ち込むことができたが、札幌ホワイトベアーズの二軍施設は茨城県にある。


 札幌にも室内練習場はあるが、それほど広くはなく、また他の選手も練習中のため、トスバッティングくらいしかできない。


 岡山から札幌へ移動した日、僕は室内練習場にこもってひたすら素振りとトスバッティングを行った。

 これが効果があるがわからないが、何かせずにはいられないのだ。


 移籍後のホーム初試合。

 この日も僕は1番ショートでのスタメンを告げられた。

 球場が変わったことで、風向きが変わることを期待したが、この日もフォアボールを1つ選んだだけで、4タコ。

 ここまで4試合で18打数ノーヒットだ。

 セーフティーバントを試みたり、あえて軽打を打ってみたりしたが、ヒットにはならなかった。

 もがけばもがくほど、深みにはまっている気がする。


 そして翌日も1番ショートでのスタメンを告げられた…。

 チームは4連敗中。

 僕が入団以来、一度も勝っていない。

 そして前日、泉州ブラックスに移籍した白石投手は、移籍後初登板を4年ぶりの完封勝利で飾った…。

 誰も口にしないが、このトレードは失敗だったとみんな思っているのではないだろうか。


 僕は試合前のミーティング後、大平監督の居る監督室を訪ねた。

 

 


 

 

 

 


 

 

 

 


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