第351話 オールスター第一戦(続き)
牽制球で誘い出されたものの、相手チームのミスにより、九死に一生を得た。
僕は二塁ベース上から、ベンチのサインを見た。
えーとあのサインは、と、盗塁?
マジか。
三塁への盗塁はただでさえ難しい。
ましてやキャッチャーは強肩の高台捕手だ。
同じチームの時はあまり感じなかったが、敵として対戦するとあの肩は脅威だ。
(打撃面では安牌だが…)
そしてピッチャーは牽制が上手い畠山投手。
さっきはうまく誘い出されたが、ここはあえて守りに入らず、大胆に行こう。
一球、牽制球が来たが、すぐに帰塁した。
同じ手に二度は引っかからない。
そして弓田選手へ投げた瞬間、僕はスタートを切った。
弓田選手は何を思ったか、バットに当てた。
打球は一、二塁間にゴロで転がっている。
セカンドの黒沢選手が横っ飛びしたが、打球はそのグラブの先を掠めて、ライトへ抜けていった。
スタートを切っていた僕は三塁を蹴って、ホームに向かう。
ホームは悠々セーフ。
これで1対1の同点だ。
でもサインは盗塁じゃなかったのか?
確認するとやはり盗塁のサインだったとのこと。
弓田選手がヒットエンドランと間違えたようだ。
それはそうだろう。
この場面で三塁への盗塁は考えづらい。
僕だって、一瞬戸惑った。
まあ、結果オーライだ。
この回は後続が凡退し、同点止まりだった。
もしこのまま試合が終わったら、サインを間違えた弓田選手が優秀選手に選ばれるかもしれない。
確か優秀選手の賞金は100万円だったはずだから、その何割かは僕が貰っても良いのではないだろうか。
(ちなみに最優秀選手は300万円らしい)
そして深町選手が守っていた三塁には、京阪ジャガーズの天野選手が入ったので、僕はそのまま退いた。
守備につきたかったが、監督も全員に出場機会を与えるために苦心しているようだ。
オールスターは延長戦は無い。
試合は結局、1対1のまま終わり、最優秀選手には3回をパーフェクトに抑えた青村投手が受賞し、優秀選手にはタイムリーヒットを打った、黒沢選手と弓田選手他が選ばれた。
熊本から大阪には明日、飛行機で移動するので、今日は熊本市内に泊まる。
試合終了後に任意参加のシーリーグ選手の懇親会があり、僕はもちろん参加した。
会費はもちろん今日賞金をもらった方々の負担だ。
ということでこの日は肥後牛など熊本グルメに舌鼓を打った。
これまで試合では対戦したことがあっても、ほとんど話したことが無かった選手とも話ができた。
これもオールスターの効用かもしれない。
2次会にも誘われたが、僕は断った。
明日早いし、どこかで結衣の耳に入らないとも限らない。
君子危うきに近寄らず。
火のない所に煙は立たぬ。
出ない2次会に粗相なし。
僕は素直にホテルに帰って、早く就寝した。
翌日は午前中に熊本から大阪へ移動した。
熊本から大阪への航空機の便は多くないので、否が応でも他の選手と同便になることが多い。
でもまさか家族と同じ便になるとは聞いていなかった。
航空機は球団手配なので、あまり気にしていなかった。
機内に乗り込んで驚いた。
隣の席が妹、その隣が、母親、その前が結衣(翔斗を抱えている)だった。
家族旅行じゃあるまいし…。
そんなこんなで大阪に到着し、僕ら選手はタクシー数台で球場入りした。
さあ、オールスター第二戦。
今日は出番があるのだろうか。
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