第456話 盛夏の天王山?

「おい、着いたぞ」

 タクシーが到着したのは、いわゆる牛丼チェーンだった。

 

「よし、好きなものを好きなだけ食っていいからな」

「あの、質問であります」

 タクシーを降りた後、僕は手を挙げた。

「なんだ、高橋」

「吾輩は焼き肉を食べたいと言ったであります」

「うん、確かに聞いた。

 でも良く451話を読み返してみろ。

 俺は好きなだけ、牛…どん(とても小さな声で)を食わしてやると言ったはずだ」


 良いのか?

 年俸を一億円以上もらっている選手が、後輩相手にそんな姑息な手を使って。

 チームの士気に関わるのではないだろうか。

 ダメもとでコンプライアンス窓口に相談しようか。

 

「そんな捨てられた子猫のような悲しい目をするな。

 全然かわいくないぞ。

 むしろちょっと腹立つ。

 いいか、今日は谷口の希望を聞いて、寿司屋に連れて行ってやる。

 俺も寿司の気分だし。

 でもお前らを寿司屋に連れて行って、好きなだけ食わせると、諭吉さんが10枚あっても足りないだろう。

 だから、牛丼食って腹を膨らませてから、寿司を奢ってやるということだ」

「なるほど、そういう事ですか」

「だからまずは牛丼を食ってから行こう」


 ということで、下山選手、僕、谷口、五香選手の4人で牛丼屋に入った。

 店の人もお客さんもガタイの良い男が4人も店に入ってきたので、驚いたようだった。

 

「なあ、あの4人って札幌ホワイトベアーズの選手じゃないか?」

「やっぱりそうか、下山、谷口、高橋とあと1人…、誰だっけ?」

 五香選手は北海道内でも、まだ知名度が低いようだ。


 「で、どうする?全員並で良いか?」

 下山選手の声がけに僕は答えた。

「僕は大盛で」

「何だ、結局大盛食うんかい?」

「はい、腹が減っているので」

「俺も大盛でお願いします」

「僕は特盛で」


「お前ら…、良いやつらだな。

 ここで腹一杯食って、寿司を控えめにするということだな。

 先輩思いの可愛い後輩をもって、俺は嬉しいぞ」

 下山選手が感動したように言った。


 だが下山選手は、僕らの胃袋を侮っていたようだ。

 特に谷口はフードファイター並に食べる。

 この後、下山選手は寿司屋で青真っ青になったことは言うまでもない…。


 なお結衣は翔斗がぐずったため、7回終了後に帰ったそうだ。

 それでは、いくら探しても見つからないわけだ


 結局、仙台ブルーリーブスに対し、札幌ホワイトベアーズは三連勝した。

 首位、京阪ジャガーズとは1.5ゲーム差に縮まり、いよいよ首位が視野に入ってきた。


 次の熊本ファイアーズとの2連戦は1勝1敗、川崎ライツ3連戦は2勝1敗、岡山ハイパーズ2連戦は1勝1分で乗り切り、京阪ジャガーズとの首位攻防三連戦を迎えた。

 

 この時点で京阪ジャガーズとは1ゲーム差。

 つまり2勝1敗なら、勝ち負けが全くの同数で並ぶ。

 季節はちょうどお盆であり、マスコミは盛夏の天王山と煽っている。

 3位の熊本ファイアーズとはすでに8.0ゲーム差となっているため、優勝争いは事実上、京阪ジャガーズと札幌ホワイトベアーズに絞られた。

 今回はホームでの三連戦であり、お客さんの声援を力に替えて、是非とも勝ち越したいところだ。


 京阪ジャガーズ戦からはダンカン選手がスタメンに復帰予定であり、札幌ホワイトベアーズとしてはほぼベストメンバーで、首位攻防戦を迎えることとなった。


 ダンカン選手が不在の間、結局四番は日替わりで下山選手、ロイトン選手、谷口が務め、僕はあの1試合だけであった。

 あの試合、2安打打ったものの、チームとしてもしっくりこなかったのだろう。

 僕としても1番ないし2番の方がやりやすい。


 ダンカン選手がいない間は、僕はほぼ全試合にスタメン出場し、ここまで73試合(チーム86試合)に出場し、177打数53安打の打率.299、ホームラン3本、打点23、盗塁16(盗塁死6)となっていた。

 

 あと少しで打率3割に復帰する。

 規定打席に到達していないものの、チーム一の高打率である。

(規定打席到達者の中では、道岡選手の.285が最高)


 京阪ジャガーズとの首位攻防初戦、札幌ホワイトベアーズはエースの青村投手で必勝を期したものの、打線が沈黙し、3対0と落としてしまった。


 だが2試合目はバーリン投手が7回を2失点に抑え、復帰したばかりのダンカン選手の3ランホームランなどで、6対3と快勝した。


 そして3戦目。

 札幌ホワイトベアーズは先発に大卒ルーキーの鈴鳴投手を先発に立てた。

 何とプロ初先発が、大事な首位攻防戦である。

 うちの首脳陣は何を考えているのか…。 

 

 

 

 

 

 

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