第366話 ヒーローインタビューⅫ
「それでは今日のヒーローをお呼びします」
球場内の照明が落とされ、暗くなった中、女性アナウンサーの声が響いた。
「打っては同点タイムリーヒットを含む2打点、走っては見事にホームスチールを決めた、高橋隆介選手です」
ワー。
やっぱりホームでのヒーローインタビューは、歓声が多くて気持ち良い。
アウェーでヒーローインタビューを受けるのも嬉しいが、どうしてもファンの人数が少なくなる。
僕は帽子を被り、ベンチを出て、光に照らされた道を通って、お立ち台に登った。
「それではもう一人、ヒーローをお呼びします。
7回に逆転のタイムリーヒットを打った谷口浩二選手です」
声援を受けて、谷口がベンチを飛び出し、お立ち台に上がってきた。
「まずは高橋隆介選手にお伺いします。
3回裏、反撃の狼煙を上げる見事なタイムリーヒット。
あの場面はどんな事を考えて打席に立ちましたか?」
「はい、負けられない大事な試合なので、道岡選手に繋ぐことだけを考えていました」
「えーと、次のバッターは谷口選手でしたが…」
「はい、そこは計算に入れないように頭から抜いていました」
谷口が苦笑しながら、僕を睨んできた。
「その後、谷口選手が繋いで、ワンアウト一、三塁の場面。
見事なホームスチールでしたね」
「はい、一塁ランナーが足が速いと、二塁には投げてくれないので、谷口のおかげです。
谷口、ありがとう」
谷口はやはり苦笑しながら、つま先で軽く僕の足を蹴ってきた。
「そして7回裏、1点ビハインドでワンアウト一、三塁の場面。
初球、2球目とスクイズを失敗しての3球目。
かなりのプレッシャーがあったんじゃないですか?」
「いえ、そうでもないです。
あの場面で、見え見えのスクイズのサインを出すベンチが悪いと思っていたので、逆に開き直っていました」
「打った球種はシンカーだったと思いますが、シンカーは頭にあったのですか?」
「はい、いい感じで追い込まれていたので、ここは裏をかいてくると予想していました」
「結果、同点に追いつく見事なタイムリーツーベースヒットとなりました。
ここまで良いシーズンをお過ごしだと思いますが、今後の目標はありますか?」
「はい、活躍してポルシェを買うことです」
「えーと、あの野球の目標は?」
「はい、年俸一億円になってポルシェを買うことです」
「そ、そうですか。
いつか夢が叶うと良いですね。
それでは次に谷口選手にお話をお伺いします」
強引に打ち切られた。
何か変なこと言ったかな?
僕は首を傾げながら、谷口と場所を入れ替わった。
「高橋選手の同点タイムリーツーベースヒットの後、ワンアウト二塁、三塁で迎えたあの場面、どんな気持ちでバッターボックスに入ったのですか?」
「はい、前の高橋が打てるなら、僕でも打てると思って、楽な気持ちで打席に入りました」
それはどういう意味かな?
後でゆっくり聞かせてもらおうか。
「ツーストライクと追い込まれた後、フルカウントまで粘っての8球目でしたが、スプリットを狙っていたのでしょうか?」
「いえ、どんな球が来ても対応しようと考えていましたが、ストリップにうまく体が反応しました」
僕は女性アナウンサーの顔が微かに青ざめたのに気づいた。
昔、僕も同じ言い間違いをして、大目玉を食らった事がある。
「追い込まれたあの場面、フォアボールは狙っていなかったのですか?」
「はい、フルカウントだったし、金山投手のストリップは素晴らしいので、じっくりと見るように心がけていました」
わざと言っているのではあるまいな?
放送事故レベルだぞ。
「初回に4点を先制された、苦しい試合展開でしたが、終わってみれば快勝でしたね」
「はい、勝てて良かったです」
「谷口選手、ありがとうございました。
それでは最後に一言ずつ、お願いします」
「はい、いつかポルシェを買えるように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします」
「明日も明後日も勝てるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」
「ありがとうございました。
大逆転勝利に大きく貢献した、高橋隆介選手と谷口浩二選手でした」
ワー、パチパチパチ。
一際大歓声を受けながら、お立ち台を降り、僕と谷口は球場内を一周した。
ちなみに次の日のあるスポーツ新聞に、「札幌ホワイトベアーズの高橋選手、首脳陣を批判」という記事が載っていたが、そんな気は毛頭無い、ということをこの場を借りて、弁明しておく。
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