第167話 久々の出場

 四国アイランズのピッチャーは、この回から十河投手となっている。

 かってのドラフト1位でストレート、チェンジアップ、カーブが持ち味の左腕。

 

 点差は3対2で勝っており、ここは追加点が欲しい場面だ。

 バッターは7番の宮前選手。

 僕はリードを取った。

 十河投手は左腕なので、セットポジションの際は一塁に顔を向けている。

 ずっと見られているようで、リードをしづらいが、少し大きくリードを取った。

 三球立て続けに牽制球が来た。

 かなり盗塁を警戒されている。


 ベンチのサインは「待て」。

 一球、様子を見るようだ。

 初球は外角へのカーブ。

 サインどおり見送ったが、判定はストライク。


 ベンチを見るとサインは、ヒットエンドラン。

 牽制球を2球目挟んでの、宮前選手はの2球目。

 僕は投球と同時にスタートを切った。

 投球は内角低めへのストレート。

 宮前選手は何とかバットに当てた。

 走りながら、横目で打球を見ると、うまく一二塁間の間に飛んでいる。

 抜けそうだ。

 僕はライトに打球が抜けたのを見て、三塁に走った。

 ライトから良い送球が帰ってきたが、余裕でセーフ。

 

 ノーアウト一三塁のチャンスだ。

 ここでバッターは高台捕手。

 バントはあまり得意で無いので、スクイズは無いか。

(過去に僕がランナーの時に、二球連続でバントを空振りされたことがある)


 ベンチのサインを見ると、ディレードスチール。

 一塁ランナーが盗塁し、送球された隙に僕がホームに突っ込む作戦だ。


 十河投手は一塁ランナーの動きをとても気にしている。

 ここはノーアウト二塁三塁にはしたくないところだろう。

 牽制球を三球挟んでの、高台捕手への初球。

 投げた瞬間、宮前選手は走った。

 高台捕手はこの球を見送り、四国アイランズのキャッチャーの清田捕手は投球を掴むと、二塁に投げた。

 それを見て、僕はホームに突っ込……まなかった。

 何故ならば送球が低いとみたからだ。

 案の定、キャッチャーからの送球を十河投手はカットした。

 やはりね。

 宮前選手は悠々と二塁に到達し、これでノーアウト二塁三塁の大チャンスとなった。

 この間の投球はボール。


 バッターの高台捕手に取って、ここは打点を上げる好機だ。

 ツーボール、ワンストライクからの4球目の外角への低目へのストレート。

 高台捕手は辛うじてバットにボールを当てた。

 平凡なセカンドゴロだ。

 この場面はいわゆるゴロGO。

 つまり内野ゴロとなった瞬間、三塁ランナーはホームに突っ込む。

 僕は夢中でホームに向かって走った。

 セカンドの福留選手がダッシュしてボールを掴み、バックホームしてきた。

 僕は回り込むようにスライディングした。

 判定は?

 

「セーフ」

 清田捕手はすぐに一塁に投げ、高台捕手はアウト。

 四国アイランズベンチはホームのプレーについて、リプレイ検証を要求したが、判定は変わらずセーフ。

 僕はベンチに戻り、各選手とハイタッチをした。

 

 後続が凡退し、この回は更なる追加点はならなかったが、足でもぎ取ったこの1点は大きいはずだ。

 そして僕はセカンドの守備に入り、試合はそのまま4対2で、泉州ブラックスが勝利した。


 守備機会も2回あったが安定して捌き、試合終了の瞬間、僕はセカンドのポジションで気持ち良く額の汗を拭った。

 久し振りの1軍の試合だったが、それなりに活躍することができた。


 明日も四国アイランズとの試合がある。

 スタメンで使ってくれないかな。

 僕はベンチで帰り支度をしながら、引き上げようとする栄ヘッドコーチの方を見た。

 

「何だ、高橋。

 俺の顔に何かついているか?」

「いえ、何でもありません」

「そう言えば、明日の試合、お前スタメンだからな」

「え、本当ですか?」

「ああ、本当だ。

 朝比奈監督がさっき言っていた」

 よし、久し振りのスタメンだ。

 暴れてやる。

 

  

  

 

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