第118話 ファミレスの思い出と同級生祭り
後半戦が始まり、静岡オーシャンズとのアウェー3連戦の後は、今度は東京に移動しての東京チャリオッツとのアウェー3連戦。
後半戦6試合で僕はスタメン2試合を含む5試合に出場し、9打数2安打、四球1、盗塁2(盗塁死2)、エラー2……。
二つのエラーのうち、一つは強烈な打球を前に弾いてしまったものだが、もう一つは併殺を焦って一塁に悪送球してしまったものであり、大いに反省している。
焦っても一呼吸置く。
いつも心がけてはいるが、目の前を走っているランナーがいると、つい気を取られてしまう。
まだまだ修行が足りない。
明日からはホームの泉州ブラックスタジアムでの四国アイランズ戦。
初戦、僕はスタメン出場を告げられた。
エラーしても下を向いている暇はない。
貰ったチャンスを活かすだけだ。
ホームの試合なので、今回も家族と彼女に連絡した。
またしても妹は、用事があって来れないとのこと。
妹は野球に全く興味が無く、僕がスタメンで試合に出ても、試合観戦より、友達とパンケーキを食べに行くのを優先させるような人間である。
(しかもそのパンケーキ代は、僕の年俸から出ている)
だけど僕はそれでも良いと思っている。
かって静岡オーシャンズからドラフト指名を受けた直後、球団スカウトの方との会食で、妹は毎日ファミレスに行くことができることに、目を輝かせていた。
その時、僕は恥ずかしかったが、その気持ちは痛いほど良くわかった。
父親が亡くなってから、頼る親族もいなかった母親は、アルバイトを掛け持ちし、僕と妹を育て上げた。
だから子供の頃の僕と妹にとっては、月1回、母親の給料日に行くファミレスがご馳走であり、1番の楽しみであった。
その時、一人千円まで頼んで良いというルールだったので、僕と妹は一ヶ月の間、次は何を頼むか、考えるのを楽しみにして過ごした。
だから僕と妹にとっては、毎日ファミレスに行ける生活は子供の頃の夢だったのである。
(なお、母親は料理は注文せず、ドリンクバーか、時には水を飲んでいた)
このため、僕がプロに入り、そこそこの年俸を貰えるようになり、妹のパンケーキ代を出してあげられるようになったことは、僕にとっては喜びでもあるのだ。
でもたまには応援に来て欲しいという気持ちもあるが……。
その試合のスタメンは次のとおり。
1 岸(センター)
2 高橋隆(ショート)
3 トーマス(セカンド)
4 岡村(ファースト)
5 ブランドン(指名打者)
6 水谷(サード)
7 富岡(レフト)
8 高台(キャッチャー)
9 山形(ライト)
ピッチャー 杉田
今日の先発は、杉田投手。
初先発で炎上(91話)し、敗戦処理を地道にこなして、再び先発のチャンスをつかんだ。
高卒入団5年目。
僕と同級生だ。
そして7番の富岡選手も同じく同級生。
もし僕ら同級生三人でチームを勝利に導けたら最高だ。
四国アイランズの先発は、エースの長岡投手。
今季も既に9勝を上げており、今日の試合に二桁勝利がかかっている。
簡単に打ち崩せるような投手ではない。
1回の表、杉田投手は二人のランナーを出したが、ショートの高橋選手の素晴らしいファインプレーにも助けられて、無失点に抑えた。
1回の裏、先頭の岸選手が珍しく四球で出塁した。
(岸選手は積極的に打っていくプレースタイルなので、四球は少ない)
2番は先ほど超ファインプレーでチームの危機を救った、未来のスター、高橋選手である。
というわけで、「りゅーすけ」コールに迎えられて、打席に向かった。
バッターボックスに入り、ベンチを見た。
サインは送りバント。
相手が長岡投手とあって、大量点は見込めない。
杉田投手を楽に投げさせるためにも、まずは先制点が欲しいところだ。
初球。
僕はバントの構えをした。
低目へのストレート。
バットをひいた、というよりも手がでなかった。
ストライクワン。
球速は140㎞/h台だが、それ以上に球の伸びがあるように感じる。
2球目。
外角へ逃げるスライダー。
バントの構えをしたが、空振りしてしまった。
凄い変化だ。
やばい追い込まれた。
僕はベンチを見た。
サインは「打て」に変わった。
スリーバントはリスクが高いと判断されたようだ。
3球目。
フォークだ。
わかっていてもバットが出てしまう。
それでも何とかバットに当てた。
打球は力なくピッチャーの右に転がっている。
長岡投手はボールをキャッチして、二塁を見たが、ランナーは俊足の岸選手。
間に合わないと判断し、一塁に送球した。
もちろんアウト。
それでもランナーを二塁に進めるという、最低限の仕事ができたことに安堵しながら、僕はベンチに戻った。
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