第204話 今日も舌戦?
「放送席、放送席。
今日のヒーローはジョーンズ投手です。
本日は四国アイランズの強力打線相手に良く抑えましたね」
木村通訳が英語に訳し、そしてジョーンズの言葉を聞いてマイクに向かって話した。
「はい、相手は素晴らしいバッターばかりなので、いつ打たれるかヒヤヒヤしていましたが、何とか役割を果たせて良かったです」
「あれ?」
隣で聞いていた岸選手が首を傾げている。
岸選手は帰国子女なので、英語がわかるのだ。
「どうしたんですか?」
「うーん、俺にはジョーンズは、全然打たれる気がしなかったので、自分のペースで投げたと言ったように聞こえたんだが」
心なしか女性インタビュアーの顔が引きつっているように見える。
彼女も英語がわかるのかもしれない。
「そ、そうですか。
強い打球が正面をついたり、味方の好守にも助けられたと思いますが、その辺はいかがですか?」
「はい、飛んだところが良く、とてもラッキーでした」
ジョーンズの言葉を木村通訳が日本語に訳した。
女性インタビュアーの顔がより一層強張っているように見える。
「今のジョーンズの言葉にラッキーという単語は無かったような気がしますが…」
「ああ、僕のマジックに簡単に引っかかってくれたので拍子抜けした、と言ったように聞こえた」と岸選手が言った。
「全然違うじゃないですか」
「きっと木村通訳が気を使ったのだろう」
「け、結果的に決勝点になった高橋選手のホームスチールの場面は、どのように見ていましたか」
ジョーンズが英語で話し、また通訳が訳した。
「はい、四国アイランズは守備が固いチームなので、ラッキーでした。
高橋選手もよく走ってくれました」
岸選手が吹き出した。
「今のは何て言ったんですか?」
「四国アイランズの間抜けな守備のおかげです。
高橋は足だけが取り柄なのであれくらい当然です、と言っている」
あきれた。
全然違うじゃないか。
「あ、明日も試合がありますので、好ゲームを期待しています。
運良く勝利投手となった、ジョーンズ選手でした」
女性インタビュアーは強引にヒーローインタビューを打ち切った。
ジョーンズは「え、もう終わり?」というような表情をしている。
しかし通訳という仕事も大変だ。
そのまま訳すとハレーションが大きいので、とっさに言い換えている。
語学力に加えて、頭の回転の良さも必要かもしれない。
これで接戦を2試合連続で制しての2連勝。
考えてみると、両試合とも唯一の得点は僕についている。
幸先のよいスタートを切れたのではないだろうか。
開幕カード三連戦の3試合目。
相手が右投げの湊投手とあって、ショートのスタメンは伊勢原選手だった。
僕はベンチスタート。
右投手の時も使ってもらえるように、実績を上げていきたいものだ。
自分では右投手に対する苦手意識は無いのだが、数字はついてきていない。
この試合、7回からベテラン左腕の宮城投手が登板したため、代打で出場した。
フルカウントまで粘ったが、三振してしまった。
その後はショートの守備についたが、チームは3対0で敗れた。
きっと今日もあのインタビュアーだったら、満面の笑みでヒーローインタビューするのだろうな。
その場面を見てみたい気もするが、試合後はホームの泉州に帰ることになっており、あまり時間がないためすぐに退散した。
次は1日空いて、ホームでの新潟コンドルズとの三連戦。
結衣の待つ自宅に帰れる。
お腹の子供は順調のようで、秋に会えるのが楽しみだ。
新潟コンドルズは開幕シリーズは新入団選手が躍動し、その筆頭はドラフト8位で入団した社会人経由のセカンドだ。
彼はここまで3試合全てに一番でスタメン出場し、11打数6安打で、四球も2つと驚異的な打率、出塁率を残している。
バットを短く持ち、ボールに逆らわず、コンパクトに打ち返す。
その打球が面白いようにヒットゾーンに飛ぶのだ。
その選手とは、高校時代のチームメートの葛西である。
葛西と僕は高校時代は不動の1、2番コンビを組んでいた。
守備も葛西がセカンド、僕がショートと鉄壁のニ遊間と言われていた。
葛西は身長168cmと僕(175cm)よりも小柄であるが、パワーも秘めており、ホームランは高校通算3本と少ないものの前進守備の野手の頭を超える打球を打つことも度々あった。
僕のいたチームはエースの山崎と4番の平井が目立っていたが、彼らだけで全国制覇できるほど、高校野球は甘くない。
僕らの代は、僕と葛西の他にも新田、柳谷、相川など素晴らしいメンバーが奇跡的に揃ったのだ。
今日はプロの舞台で葛西と戦える。
僕はワクワクしている。
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